「心の暗道」

心の中には、誰にも見えない暗い道がある。
その道を進む者は、自らの恐れや思い込みに引きずり込まれ、帰れなくなると言われていた。
東京に住む大学生の健太は、最近増えてきた心の不調を感じていた。
友人たちからも「最近、元気がないね」と気遣われるが、その言葉が逆に彼の心を重くした。

ある晩、健太はベランダに出て星空を見上げていた。
ふと、心の中の不安と恐怖が高まり、彼はその「心の道」を歩きたくなった。
これは決して良い試みではないと分かっていたが、彼の好奇心が勝ってしまったのだ。
健太は静かに目を閉じ、心の中をイメージした。

彼が意識を集中させると、徐々に視界が変わり始め、闇に包まれた道に立っている自分に気付いた。
周囲は静寂で、ただ鼓動の音だけが響いていた。
恐怖が彼の心を囚える中、道の先にかすかな光が見えた。
それはまるで、何かを引き寄せるような優しい光だった。

健太はその光に向かって歩き始めた。
しかし、道を進むにつれて、彼の足元に不安が絡みついてくる。
心の中の恐れが如実に現れてきたのだ。
彼は自分の過去のトラウマや、隠していた感情が浮かび上がり、重い鎖のように彼を拘束していった。

「お前は一人だ」と、どこからともなく声が聞こえてきた。
健太は立ち止まり、震える手で顔を覆った。
「そんなことはない…友達もいるし、家族も…」しかし、心の奥底から湧き上がる不安が彼を押しつぶし、周りの景色がさらに暗くなった。

突然、道の両脇に咲いていた華が枯れ始めた。
それは彼の心の中で、彼が否定し続けていた感情そのものだった。
恐れや悲しみ、孤独感の象徴だ。
彼は逃げ出そうとしたが、足が動かない。
その場に立ち尽くしたまま、彼の心はどんどんと真っ暗になっていった。

「受け入れなさい」と再び声が聞こえた。
彼の心の奥から、何かが囁いている。
健太はゆっくりと顔を上げ、咲いている華に目を向けた。
その華は彼の心の痛みを象徴しており、さらに枯れていく様子に恐れを抱いた。
しかし、同時にそれは彼自身の過去の一部でもあった。

健太は一歩前に踏み出した。
「私の心の中には、私自身がいる。」彼はそう声に出して言った。
その瞬間、道の景色が変わり始め、華が再び色を取り戻していく。
恐れが少しずつ薄れていくのを感じ、彼は自分自身を受け入れる決意を固めた。
心の中に光が差し込み始める。

彼は一歩一歩、前に進んでいく。
華は健太を祝福するかのように、さらに鮮やかに咲いていった。
心の道は彼にとって恐怖の象徴だったが、今はそれを乗り越える力が彼の中に芽生えていた。
恐れを受け入れることで、彼は逆に自由になったのだ。

最後に彼が辿り着いたのは、心の奥に隠れていた温かい光の場所だった。
そこには彼が大切に思っていた思い出や希望が詰まっていた。
もう迷わない。
彼はそう励まし自分を信じ、心の道を進み続けることを決めた。

そして、意識が戻り、健太は静かな夜の中で目を覚ました。
心の中の道を歩くことで、彼は真の自分と向き合うことができたのだ。
恐れはもう彼を縛ることはない。
健太は新たな一歩を踏み出す準備が整ったのだ。

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