心の奥底に潜む恐怖。
桜井美咲は、ある日、友人から語られた「心の怪談」に強く引かれた。
彼女はいつも周囲の人々を気遣う優しい性格だったが、その優しさの裏には、自分の心の奥に蓄えられた失意や疑念があった。
美咲は、心に秘めた感情と向き合うため、自らの記憶を辿ることにした。
彼女の心の中には、過去のある出来事が影を落としていた。
それは彼女が高校生の頃、親友の陽子を失った時のことだ。
陽子は突然、交通事故に遭い、美咲はその悲劇に打ちひしがれた。
彼女の心には、未だに陽子の笑顔が焼き付いており、彼女への思いがいつも心の中で渦巻いていた。
ある晩、美咲は夢の中で陽子に会った。
その夢はとてもリアルで、陽子は美咲を笑顔で迎えてくれた。
「私はここにいるよ、美咲。一緒にいてくれる?」その言葉に美咲は胸が温かくなった。
しかし夢が醒めると、すぐに現実には陽子がいないことを思い知らされ、深い悲しみに沈んでいった。
美咲は心の傷を癒すため、陽子の思い出を形にすることを決意した。
彼女は陽子との楽しい日々を描いた日記を作り、彼女が好きだった桜の花を常に部屋に飾るようにした。
しかし、その努力も心の空虚感を埋めることはできなかった。
ある日、美咲は「心の怪談」をテーマにしたSNSのコラムを見つけた。
その中には、心の中に抱えた失いや恐れが具現化し、現実世界に影響を及ぼすという不思議な話が記されていた。
興味を持った美咲は、そのコラムを読み進め、ある一節が彼女の心に深く響いた。
「別れを受け入れられない心が、誰かを求める。心の中の影が、現実に現れる時、あなたは気づく。」
美咲は自分の思いが現実に影響を及ぼすことを理解し、その思いと向き合う決意をした。
彼女はもう一度、陽子のことを心に刻み込み、彼女との思い出を大切にした。
すると、次の朝、奇妙なことが起こった。
彼女が部屋に戻ると、陽子が大好きだった桜の花が散らばっていたのだ。
心臓が高鳴り、美咲は恐怖を感じた。
桜の花は陽子の象徴であり、彼女を思い起こさせたが、今はその影が自分の心に侵入してきたかのようだった。
美咲は恐れて部屋を出ようとしたが、足がすくんで動けなかった。
その時、陽子の声が聴こえた。
「美咲、私はずっとここにいる。あなたの心の中で。」その声は優しくも、どこか怨念めいていた。
美咲はその言葉の意味を理解し、離れられない恐怖に押しつぶされそうになった。
果たして、彼女の心の奥に積もった思いは、どこまで陽子を求め、どこからが恐怖に変わるのか。
美咲は思い浮かべた。
失った陽子との絆を、心の中でいつまでも絶やさずにいることは、果たしていいことなのか。
それとも、彼女を忘れることで自分自身を解放することができるのか。
心の葛藤の中、美咲は陽子の影が深く暗い渦のように心に忍び寄ってくるのを感じた。
やがて、美咲は自らの意志で過去の傷と向き合うことを決意した。
そこには陽子の笑顔があったが、その裏には深い悲しみの影も潜んでいた。
彼女の心の中の痛みを受け入れ、陽子との別れをゆっくりと癒していくこと。
その選択が、彼女を救う道であると信じたい。
美咲の心の中で、陽子の思い出が切ないほどの美しさと共に存在し続ける。
その思いを抱えながら彼女は、別の未来へと歩き出すことを決めた。
しかし心の奥底には、やはり陽子の影が残る。
それが、彼女にとって決して消えることのない怪談なのかもしれない。