行は、最近不安定な心の状態に悩んでいた。
毎日が辛く、思考がぐるぐると回り続ける。
彼は何度も自分の心と向き合おうと試みたが、どんなに考えても暗闇の中に埋もれている気がして、抜け出すことができなかった。
ある日、行は友人と歩いていると、暖かな日差しが降り注ぎ、少し心が軽くなった。
公園を通りかかると、彼は子供たちが遊んでいる姿を見て、ほんのひと時の嬉しさを感じた。
その瞬間、辺りの景色が不意に歪み、彼の目の前に一人の少女が現れた。
彼女の名前は、日葵。
彼女はまるで光そのものであるかのように、周りを明るく照らしていた。
「行君、どうしてそんなに暗い顔をしているの?」彼女は優しく尋ねた。
行は驚きつつも、自分の心の悩みを打ち明けてみた。
日葵は静かに聞いてくれ、彼の話が終わると、「心の中には、時折見えない怪が潜んでいるの。私がその怪を追い払ってあげる」と微笑んだ。
不思議なことに、行は彼女の言葉に導かれ、まるで心の中に存在する何かを見つけ出すための旅に出ることにした。
日葵が指示したのは、自らの内面を広く映し出す「心の鏡」のような存在だった。
彼がその場所にたどり着くと、彼の心の奥底に潜む『怪』が少しずつ姿を見せ始めた。
それは、彼が過去に避けてきた思い出や、失ったものたちだった。
友人の彼、失った愛、そして心の中に巣食う恐れ。
行はそれを直視することに、大きな勇気が必要だった。
しかし、日葵が傍にいてくれることが、心強い支えとなっていた。
彼らが鏡の中に映し出される影と向き合っていると、急に日差しが強まった。
外の世界は日中だというのに、心の中はどんどん暗くなり、彼らの姿が『怪』に飲み込まれる危機が迫ってきた。
行は思わず震え上がり、日葵の手を強く握った。
「行君、思い出して。あなたは命を持っている。その命はあなた自身で守ることができる」と日葵は言った。
その言葉が響くと、行は目を閉じ、心の中の怪へと意識を集中させた。
すると、かつての自分が囁いていた声が聞こえてきた。
「もう終わりだ、何もかも放り出せ」と。
だが、行は恐れをこらえ、「いいえ!私は私の命を手放さない」と叫んだ。
すると、彼の心の奥から一筋の光が差し込み、暗闇が後退していくのが感じられた。
それは日葵の光であり、自分自身が取り戻していた命の証だった。
心の中での戦いが続く中、行は少しずつ『怪』の姿を消していくことができた。
そして、最後の力を振り絞ると、暗闇は完全に消え去り、彼は再び明るい光の中に戻ってきた。
行は日葵の顔を見た。
彼女は穏やかな笑顔を浮かべ、「行君、あなたが自分自身を受け入れたから、この命は守られたのよ」と言った。
その言葉に、行の心は温かさで満ちた。
心の中の怪と向き合い、闘い抜いたことで、彼は少しでも強くなった気がした。
日が傾き始め、行は心に新たな光を持って歩き出す。
彼はもう一度、自分の命を大切にする決意を固めた。
心の中に潜む怪は時に怖いが、その影を見つめることでこそ、命の尊さを改めて実感できるのだと理解した。
日葵の存在によって、彼の心は再生されたのだった。