心がわずかにざわめくと、少しずつその音が大きくなり、誰かがそれに気づかずにはいられない。
田中美咲は、そんな異変を感じていた。
彼女は高校生活のストレスで心が疲れ果て、いつもどこか落ち着かなかった。
友達や家族の前では笑顔を装っても、その心の奥深くでは何かが囁いていた。
彼女は毎晩、自分の心の奥底にある不安や恐怖と向き合うため、一人で静かな夜の街を歩いていた。
しかし、ある晩、美咲はまったく別の存在を感じ取った。
それは、彼女の心の中に潜んでいた「何か」だった。
その夜も、いつものように静かな公園を歩いていると、美咲は突然、冷たい風に包まれた。
公園の片隅にある古い木の下に何かがいるような気配を感じた。
彼女はその木に近づくと、瞬間、心の中のざわめきが一層大きくなった。
心臓が高鳴り、恐怖が彼女を襲う。
「あなたの魂を感じる…」
美咲はその声を耳にした瞬間、体が凍りついた。
周りを見渡しても誰もいない。
そこにいるはずのない誰かの声が、彼女の心の中で響いていた。
声は少しずつ強くなり、心の奥深くに響き渡る。
「私を消さないで。私の中に入ってしまったから…」
美咲は驚愕し、後ろに下がった。
しかし、何かが彼女を引き寄せる。
魂のような、しかし確かな温もりを感じた。
心の奥に眠っていた過去の出来事が、彼女を呼び寄せていたのだ。
美咲は、いつしかその心の声に心惹かれ、振り向くことができなかった。
その木の下で、美咲は目を閉じた。
亡くした祖母の声、忘れられた思い出の数々、そして、彼女が抱えていた罪のような感情が次々と浮かび上がる。
祖母はいつも、「心に留めておくことは大切だが、時にそれを手放す勇気も必要」と言っていた。
今、彼女の心にはその教えが降りかかっていた。
「私の心はあなたのもの。私を解放して。」
気がつくと、美咲はその樹に向かって涙を流していた。
彼女は魂の声の主を解放するため、自らの心の奥深くにある恐怖や痛みを受け入れることを決心した。
それは怖いことであり、胡散臭い話に聞こえるかもしれないが、彼女の心にある何かは確かに何かを求めていた。
「解放してあげるから、私の心の中に留まらないで…」彼女はその場で心の声にささやいた。
自分の痛みや恐れを受け入れることで、その魂を解き放つことができると感じていた。
突然、風が強く吹き抜け、周りの空気が変わったと感じた。
そのとき、心の声は美咲に向かって穏やかにささやいた。
「ありがとう…」という声が、高く響き渡った。
美咲はその声を聞いた瞬間、心の中に重くのしかかっていたものが、少しずつ軽くなっていくのを感じた。
木の下に立っていた彼女は、その瞬間、心の静けさと安らぎを得ることができた。
夜空に月が輝き、心の奥にある影が消えていく。
美咲はその場に立ち尽くしていたが、心の中には以前のようなざわめきはもうなかった。
そして、彼女は自分自身と向き合うことができたのだ。