ある静かな村に住む佐藤明は、幼いころから周囲の大人たちから語られてきた伝説を耳にしていた。
その伝説は、村の外れにある神社にまつわるもので、「呪の始まり」と呼ばれていた。
神社は人々が寄り付かない荒れた場所で、明はその恐怖心から足を運ぶことができずにいた。
明の祖母はいつも、神社に行くと「然(しかり)」という言葉が響いていると言っていた。
人々の心の底に潜む恐れや欲望をあぶり出すその言葉は、村に住む者たちにとって特別な存在だった。
明はその神社がどのような場所なのか、一度自分の目で確かめたいと思った。
ある晩、明はふとしたきっかけでその神社を訪れる決心をした。
月明かりの下、森を抜けると、不気味なほど静かな神社が現れた。
朽ち果てた社殿には、長い間誰も訪れていないことがわかる。
明は、心臓が高鳴るのを感じながら、一歩一歩近づいた。
社の前に立つと、心がざわざわと落ち着かなくなった。
明は、祖母が言っていた「然」の声を捉えようと耳を澄ました。
しかし、何も聞こえてこない。
爪先で砂利を踏む音だけが響いた。
彼の知らない恐怖心が次第に募り、小さく呟く。
「呪の始まりは、ここからなのか?」
その瞬間、突然風が吹き荒れ、社の中からざわざわとしたささやき声が聞こえた。
明は心臓が跳ね上がり、足がすくむ。
声は「呪われた者よ、何を求めるのか」と響いた。
その声は明の心の奥に潜む不安や恐れを直視させるかのようだった。
恐れおののきながら、明は思わず「私は自分を知りたい」と叫んでしまった。
一瞬の静寂が訪れた後、社の中から不気味な影が現れ、彼に向かって近づいてきた。
影はまるで、自分の悩みを映し出す鏡のように思えた。
恐怖心が明を襲い、逃げようとしたが、足は動かなかった。
「呪の始まり」を自分から完全に逃げることはできないのだと感じていた。
影が彼の前に立ち、力強い声で告げた。
「お前の心の中に隠されたものを見せてやろう」と。
明は、その瞬間、心がざわざわと動き始め、自分の中にある「呪」の正体が何かを知りたくなった。
私は過去の失敗や他者を傷つけた記憶を抱えていた。
それらはすべて、自分の心を重くし、逃げ続けてきた「呪」そのものであった。
明は深く息を吸い込み、心に抱えていたものと向き合う決意をした。
影は明の背後に回り込み、彼の心をさらけ出していった。
彼は子供のころの楽しい思い出や、大切にしていた人々との笑顔を思い出した。
けれども、同時に過去の過ちや、自分が無視してきた感情も浮かび上がってきた。
明は心の中の影と向き合い、全てを受け入れなければならないということを理解した。
この瞬間、明の心の奥底にあった呪が解き放たれるような感覚があった。
彼は自分の過去の経験を抱きしめて、前に進むことができると確信した。
影は徐々に薄れていき、最後には明の目の前で消えていった。
神社の空気が変わり、風が静かになった。
明は社の前で、自分自身を許すことができた安堵感に包まれた。
彼は、呪の始まりは過去の自分との対話であり、それを受け入れることで初めて解消されるのだと理解した。
その晩、明は新たな決心を胸に、神社を後にした。
心には重荷がなくなり、どこか軽やかな気持ちで。
また明日から、今度は未来に向かって進んでいくのだ。