「心の中の印」

陽は、静まり返った院の中を歩いていた。
薄暗い廊下には、古い木造の床がかすかな音を立て、その音が彼女の心臓を刺激する。
彼女は友人たちに誘われ、この院に来ることになったが、そこには暗い噂があった。
院には「印」と呼ばれる奇妙な標識があると噂されており、夜になると不気味な現象が起こるという。

院に足を踏み入れると、陽はその異様な雰囲気に包まれた。
友人たちはすぐに談笑し始めたが、陽の心には恐怖が芽生えていた。
特に、彼女の目に留まったのは廊下の壁に刻まれた「印」だった。
それは、心を蝕むような形をしており、何か悪いものを引き寄せるような気配を醸し出していた。

「どうしたの?ビビってるの?」友人の一人が笑いながら問いかける。
陽は笑顔を作りながら頭を振ったが、心の奥に潜む不安は消えなかった。
夜が更けるにつれ、彼女はその印が示す恐怖に引き込まれていくような感覚を抱くようになった。

友人たちが盛り上がっている中、陽の耳に何かが囁く声が聞こえた。
「悪を知らずにこの地を踏むな」と。
彼女は考えすぎだと思ったが、その声は彼女の頭の中から消え去ることはなかった。
そして、不意に廊下で不気味な風が吹き、陽は体がざわつくのを感じた。

友人の一人が、軽いノリで印に手を触れると、瞬時に暗い影がその場に現れた。
急に空気が重くなり、混乱が広がる。
陽は一瞬のうちに理解した。
印は単なる絵ではなく、悪を引き寄せる扉であり、その影は彼女たちが無知であるがために現れたのだ。

陽は叫び、友人に逃げるよう警告したが、その声は誰にも届かなかった。
影は形を持つようになり、彼女たちを捉えようとして迫ってくる。
友人たちは恐怖に怯え、全員が混乱に陥った。
陽は必死に印のことを思い出そうとしていた。
彼女は一度その印の前で立ち尽くしたことがあった。
その時、心に浮かんだ「悪」という言葉。

影は彼女の心に潜む悪を見抜いたのだろうか。
陽はその瞬間、自らの心の中にある憎しみや嫉妬、不安を思い出し、自分自身が何を失ったのかを理解した。
彼女は恐る恐る印に目を向け、その中に隠された真実に気づいた。

彼女は叫んだ。
「私はあなたに屈しない!」陽のその言葉は、影を一瞬止めさせた。
友人たちは戸惑い、彼女の言葉に耳を傾けた。
陽は、周囲の不安や怒りを超えて、心の中にある悪を認めることが必要だと強く感じていた。

影が再び動き始める中で、陽は自分の中にある感情をすべて昂揚させた。
「私の心の闇を受け入れろ!」彼女は印に向かって叫ぶ。
すると、印が光り、影が渦巻きながら消えていく。
友人たちは事の異変に気づいたが、陽の勇気に触れて立ち直り始める。

次第に影は消え、院は静寂を取り戻した。
陽は自らの内面に存在する悪を認め、友人たちと共にそれを乗り越えようと決意した。
この経験を通じて、彼女たちは結束を強め、院での出来事を忘れないよう誓った。

暗闇を恐れず、心の印を乗り越えた陽は、次の朝には新たな一歩を踏み出す準備ができていた。
そして、その印は彼女にとってただの記号ではなく、内面的な成長の象徴となったのだった。

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