「心に宿る絆」

田中は、大学生活も終わりに近づく春のある日のこと、友人たちと一緒に北海道の小さな村へ旅行に出かけた。
そこで彼は、幼い頃に遊んでいた親友の健と再会することを心待ちにしていた。
しかし、健は数年前に不慮の事故で亡くなってしまっていた。
彼の死は田中に深い悲しみをもたらし、心の中に大きな空白を残していた。

村に着くと、田中は健と共に遊んだ思い出の場所を訪れた。
それは、今も残る古い神社だ。
薄暗い木々に囲まれ、草木が生い茂るその場所には、どこか神秘的な雰囲気が漂っていた。
田中は、一人静かにその神社で健の思い出に浸る。
向こうの茂みからささやくような風の音が、彼の心をさらに引き締めた。

その晩、田中は夢を見た。
夢の中で、彼は健に再会した。
笑顔を浮かべた健が、いつものように彼に手を振っている。
田中は驚きと喜びでいっぱいになり、「どうしてここにいるんだ?」と声に出した。
健はゆっくりと頷きながら言った。
「田中、忘れないで、僕との約束を。」

田中は夢の中で何の約束をしたのか思い出せないまま、心の奥から湧き上がる懐かしさに揺れ動いた。
「約束?何を約束したんだ?」と尋ねると、健は微笑んで首を振った。
「それは、君の目の前に現れるはずだ。」

翌朝、田中は目を覚ましたが、夢の中の出来事がずっと心に残っていた。
彼は神社に再び足を運び、健との約束を果たさなければならないと強く感じた。
空は曇り、どこか不安を感じる一日だった。
神社に着くと、彼の心臓は高鳴り、まるで何か特別なことが起こるかのような気配を感じた。

その時、田中の背後で突然冷たい風が吹き抜けた。
驚いて振り返ると、そこには誰もいない。
しかし、何かを捉えるような視線を感じ、彼は再び神社に目を向けた。
と、その時、神社の社から青白い光が漏れ出ているのを見つけた。

田中は驚きと興味に駆られ、ゆっくりと社の中に足を踏み入れる。
すると、その光に包まれるように、健の姿が現れた。
彼はまるで生きているかのように、優しい笑みを浮かべている。
「田中、僕いたよ!君とまた会えて嬉しい!」

その瞬間、彼の目の前に現れたのは、幼いころの思い出が形成した健の姿だった。
田中は噴き出すような涙を流しながらも、「君を忘れることなんてできないよ!ずっと一緒にいると思っていたのに…」と叫んだ。

健は少し静かになり、田中の目をじっと見つめた。
「約束を思い出した?僕は君の心の中にいつまでもいる。だから、つらい時、悲しい時、僕を思い出してほしい。君が幸せでいる限り、いつも君を見守っているから。」

田中はその言葉を聞いて胸が熱くなった。
彼はずっと自分の中で健を感じていたが、これからは彼との絆をより深く感じながら生きていくことができる。
それは、ただの記憶ではなく、心の中に生き続ける存在だった。

「夢で会えるかな、健?」と田中は言った。
健は微笑んで頷き、「必ず。君が忘れないかぎり、僕も常にそばにいるから。」

その言葉を最後に、健の姿は薄れ、青白い光も収束していった。
田中は一人残され、彼が約束を果たせていなかったという思いが消えていくのを感じながら、健が心の中で生き続けていることを強く実感した。

田中は神社を出て、再び友人たちと合流する。
彼の心の中には、今でも健との絆がしっかりと根付いていた。
その後、どんなにつらいことがあっても、健の言葉を胸に、新しい日々を歩んでいくことを心に誓った。

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