「御霊に宿る呪い」

かつて、静かな山間の村に「御霊宮」という神社があり、地元の人々はこの神社を敬っていた。
しかし、その宮には一つの禁忌が存在した。
それは、神社の奥に祀られている神に対して、決して立ち入ってはならないというものだった。

ある夏の日、村から遠く離れた都市に住む青年、健太は、父の故郷であるこの村を訪れることになった。
地元の人々の話を聞いたり、自然の中で過ごしたりすることに憧れていた。
しかし、噂を聞く中で、彼は「御霊宮」の存在を知り、その神秘的な雰囲気に惹かれるようになった。

村の人々は、神社に近づくことを恐れ、「そこの神様は生きている」とささやいていた。
健太は好奇心に駆られ、昼間のうちに御霊宮を訪れることにした。
晴天の中、彼は神社の鳥居をくぐり、静謐な境内に足を踏み入れた。
周囲は緑に囲まれ、静けさが漂っていた。

境内には、祭壇がありかつての繁栄を感じさせる台座があった。
しかし、宮の奥にある祠は、どうしても彼の目を引いた。
禁忌を破ることに対する恐れはあったが、神殿の何か吸い寄せられるような魅力を感じていた。
「なぜこんなに神聖な場所があるのか…」そう思いながら、健太は意を決して祠に足を向けた。

祠に近づくと、そこには古びた霊体が祀られていた。
黒い服を着た女性の姿が、異様な静けさを持っていた。
彼女の目は閉じられ、整った表情には何か凄まじい何かが漂っていた。
彼女にとって、健太はどのような存在なのか、そして何を求めているのか、彼は自然に突き詰めていくことになる。

その瞬間、空気が一変した。
「生きている者が、私の前に現れるとは…」彼の耳に囁くような声が響いた。
驚いた健太は後ろに下がろうとしたが、まるで身体が動かなくなった。
恐怖と驚きが入り混じり、心臓が高鳴る。
彼の目の前で、霊は微笑んでいたが、その笑顔にはどこか不気味さがあった。

「私を覚えているか?」その声は再び響く。
「私がこの御霊宮に封じられたのは、長い間の怨念のせいだ。生者たちは、私を忘れ、私の存在を無視し続けている。しかし、私には望みがある。」

健太は声に引き寄せられ、彼女の目を見つめた。
彼女は生前の記憶が散らばるかのように話し続ける。
「この宮に入ってくる者全てに、私の呪いをかけたい。生きる者に代わって生きたかったのだ。」

彼女の言葉は次第に耳に響き、彼の恐れが高まる。
「お前も私の存在を感じたな。私の生を奪った者たちに復讐するために、人を呼ぶ準備をしているのだ。」その瞬間、健太は彼女の意志を感じた。
恐ろしい復讐の思いが、彼の心を捉えていくのを感じた。

「だが、健太よ。私の手伝いを手に入れるには、代償がいる。この宮での生を受け入れる覚悟があるのか?」

彼は自分がこの神社に足を踏み入れてしまった理由を考えた。
間違った選択をしたことへの後悔。
しかし、彼の中で何かが目覚めていた。
彼女の言葉が、彼を引き寄せていく。
「怖れを知らぬ者は、私を解放することができる。しかし、その結果はお前の未来を変えるかもしれぬ。」

健太は意志を固めて、彼女に答えた。
「私はあなたを助けることはできない。でも、その復讐が実を結ぶことがないように、誰にもこの宮のことを教えません。」その瞬間、目の前の霊は驚くほどの美しい笑顔を見せた。

「その答え、感謝するわ。お前は勇気がある。だが、私の願いは今も続いている。御霊宮の存在を忘れないでくれ。」

彼女の言葉が消えると同時に、身体が解放され、知らぬうちに健太は境内の外へと飛び出していた。
振り返ると、宮は静まりかえったままだった。
その時、彼は自分の心の中に今もまだ、彼女の存在が宿っていることを痛感した。

村人たちの恐れは無駄ではなかった。
そして、健太はこの光景を他者に伝えることなく、長い間この宮のことを心の奥に秘めたままでいた。
彼女の存在を忘れずに生き続けたが、時折、夜の静けさの中で彼女の声が耳に響くのだった。

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