ある地方の小さな学校。
生徒たちが集まる場所ではあるが、そこには不気味な噂が立ち込めていた。
特に、古い校舎の3階は誰も近づきたがらない場所だった。
「幽霊が出る」とか「そこに行ったら帰れなくなる」といった、学校の子どもたちの間で語られる恐ろしい話が広まっていたからだ。
ある日、好奇心旺盛な中学生のユウタは、友達と一緒にその3階に行くことを決めた。
彼らは「ただの噂だろう」と笑い合いながら、薄暗い廊下を進んでいった。
心臓がドキドキと高鳴り始め、足取りは重たくなる。
彼は、ふと友人たちの表情をうかがった。
みんな、いつの間にか真剣なまなざしで、心の底から恐れている様子だった。
3階に到着した彼らは、廊下の終わりにある古い教室のドアを見つけた。
そのドアはさびれていて、まるで何年も誰も開けたことがないように見える。
みんなが躊躇していると、ユウタがそのドアを開けた。
ガラガラと音を立てて開いた瞬間、冷気が一気に教室の中に流れ込んできた。
教室の中は暗く、埃が積もった机や椅子が並んでいた。
使われなくなった教室には、今までの光景が頑なに残っていた。
彼らは息を呑み、身を寄せ合った。
そこで、ある異様なものに気が付く。
壁には無数の落書きがしてあり、その中には「出てくるな」とか「逃げろ」といった言葉が、赤いペンキで書かれていた。
友人たちが恐れをなして帰ろうとした瞬間、教室の窓が突如として大きく揺れた。
彼らは一瞬、外の風の強さに戸惑ったが、次の瞬間、教室の奥の暗闇から白い影が現れた。
その影は徐々に形を変え、ひとりの女の子の姿を成していった。
彼女の目は虚ろで、まるで過去の何かに囚われているかのようだった。
女の子は彼らをじっと見つめて、口を開いた。
「助けて…」その声はか細く、響くように教室の中に広がっていった。
友人たちは驚いて後ずさり、ユウタだけが一歩前に踏み出した。
「どうしてここにいるの?何があったの?」
彼女は無言で教壇の方に視線を移し、そこには小さな黒板があった。
ユウタはその黒板に近づくと、書かれている内容に気づいた。
「ここからは出られない」という言葉が、何度も繰り返し書かれていた。
友人たちはパニックになり、一斉に教室を出ようとした。
だが、ドアは開かない。
ユウタは恐怖を感じながらも、女の子に目を向けた。
「あなたは…どうしたの?」
女の子は再び口を開いた。
「私はここで…一人ぼっちで…ずっと待ってる…」その瞬間、教室全体が凍りついたように静まり返り、何かが近づく気配を感じた。
瞬間的にユウタは仲間に大声で叫んだ。
「助けて、開けて!」彼らの叫び声が響く中、教室の空気が急に重くなり、女の子の姿が段々と薄れ始めた。
「もう…行かないで…」彼女の声は次第に遠くなり、最終的には何も聞こえなくなった。
ドアが突然開き、友人たちは一斉に逃げ出した。
ユウタもすぐに後を追い、外に出ると、辺りはすっかり静まり返っていた。
その後、彼は学校を二度と訪れなかった。
彼の記憶の中には、今もあの女の子の叫び声と、静かな教室が鮮明に残っている。
学校の噂は終わったわけではなく、恐ろしい記憶と共に、今も誰かの心の中に生き続けているのだった。