「待ち続ける少女」

並木道を歩いていた佐藤は、何気ない日常の中に潜む不気味な力を感じ取っていた。
この道は、彼の家の近くにあり、毎日通り過ぎる場所だった。
しかし、その日、何かが違うと感じた。
いつもは明るい日差しが降り注ぐこの道は、どこか薄暗く、陰湿な雰囲気を漂わせていた。

佐藤は特に気にすることなく歩き続けたが、次第に背後から何かに見られている気配を感じ始め、心臓が高鳴った。
振り返るが、ただ一面の林が広がるばかりだ。
それでも、彼の背筋には冷たい汗が流れ落ち、何かが彼に迫っているという恐怖が心を掻き乱した。

その後、彼は並木道の途中にある古びた神社に辿り着いた。
その神社は普段は訪れる者も少なく、鳥居が朽ちかけていることさえも気に留められない存在だった。
しかし、今は何かに引き寄せられるように彼はその神社に足を運んだ。

中に入ってみると、中は薄暗く、静まり返っていた。
ふと、佐藤の目に留まったのは、中央に置かれたお供え物だった。
色褪せた花と供えられたお菓子が、いつから置かれているのかは不明だった。
彼はその異様な光景に胸騒ぎを覚える。
動けなくなった佐藤は、ただその場に立ち尽くしていた。

その時、境内の奥から、かすかな声が聞こえてきた。
「助けて…」その声は子供のようで、切実さが伝わってきた。
思わず声の方へと歩み寄ると、そこには小さな女の子が立っていた。
白いワンピースを着た彼女は、無邪気な笑顔を浮かべていたが、その目はどこか哀しげで、手には何かを持っていた。

「私、ここから出られないの…ずっと一人ぼっちなの…」女の子の声はさらに小さく、震えていた。
佐藤は心が痛むような感覚を覚え、彼女に何があったのか知りたいという気持ちが芽生えた。
だが、彼の体は動かない。
まるで何かに引き止められているようだった。

「お兄ちゃん、お話しようよ。私の名前はゆり。」彼女は笑顔を向けたが、その笑顔は薄暗い森の中に浮かぶ惑いのように見えた。
気がつくと、佐藤は自分の目の前にある小さな女の子に惹きつけられ、話がしたい、助けたいという思いが湧き上がっていた。

しかし、その時、背後で大きな音が響いた。
何か重いものが倒れた音だ。
驚いて振り返ると、並木道がいつの間にか真っ暗になり、神社の境内も異様な静けさに包まれていた。
恐怖が一気に押し寄せ、佐藤は女の子に向き直った。

「ゆり、どこから来たの?」彼の声は震え、冷たい汗が頬を伝った。

「私、ここにいるよ。ずっと前から…」ゆりの声は優しかったが、どこか切なさを含んでいた。
その瞬間、佐藤は彼女の正体に気がつく。
彼女はこの神社の神隠しに遭った霊だった。
彼女の背後には影が薄っすらと浮かび上がっていた。

こわばった体を動かし、佐藤は後ずさりすると、ゆりの声が響く。
「どうしていなくなるの?一緒に遊びたいのに…」その言葉はますます耳を塞ぎたくなるように響き、佐藤は恐怖で押し潰されそうになった。

逃げるように並木道を駆け出すと、背後から彼女の声が追いかけてきた。
「また、来てね。待ってるから…」

やがて、並木道の終わりが見えてきた。
明るい光に包まれて解放感が広がる。
振り向くと、暗闇の中からゆりの姿が薄れていくのが見えた。
そして、その瞬間、彼女の声は途切れた。
どこからか聞こえた「待ってるから…」の言葉が、佐藤の心に恐怖として刻まれる。

佐藤はこの日以来、二度とその並木道を歩くことはなかった。
しかし、彼の心の片隅には、あの小さな女の子の笑顔がいつまでも haunting memories として残っていた。
彼女の存在は消え去ったはずだったが、彼の中で永遠に生き続けているのだと、ある日、彼はふと思い出すのであった。

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