彼女の名前は佐藤明美。
彼女は大学の友人たちと共に、週末に心霊スポットと噂される廃墟に足を運ぶことを決めた。
廃墟は、かつては賑やかな旅館として栄えていたが、数十年前の火災で閉鎖され、その後は誰も近づかない場所となっていた。
明美たちは、好奇心と少しの恐怖を抱えながら暗い森の中を進んでいく。
周囲は eerie な雰囲気に包まれ、木々の間を通る風が不気味な音を響かせていた。
たどり着いた旅館の外観は、朽ち果てた木の柱やひび割れた壁で構成されており、長い年月が経ったことを物語っていた。
「ここ、本当に怖いね。」友人の中村が言った。
明美は頷きながらも、背筋が寒くなるのを感じた。
しかし、彼女は少しでも心霊体験をしたいという思いから、友人たちを引き連れて中に入ることにした。
廃墟の内部は、暗く、静まり返っていた。
つんとした空気が彼女たちの心拍数を上げ、不安を募らせる。
何かが彼女たちを見ているような、そんな感覚が襲ってきた。
明美は深呼吸をし、恐怖を押し殺しながら廊下を進む。
友人たちの背中を押し、笑い声でその不安を紛らわせようとした。
「ほら、そんなに怖がらないで、ちょっと面白い話しようよ。」と言い、彼女は自分が聞いた怪談を語り始めた。
話は、火災が起きる前の旅館に住んでいた女性の幽霊についてだった。
彼女は、失った愛人を求めて彷徨っているという。
語るうちに、明美は自分自身がその場所に心を奪われていることに気づいた。
友人たちも話に引き込まれ、彼女の声が響くたびに、廃墟の中の不気味な静寂がより際立った。
ふと、明美の背後で小さな音が聞こえた。
「何か、聞こえた？」友人たちの視線が彼女に集中し、思わず振り返る。
だが、そこには何も見えなかった。
気のせいかと思ったその瞬間、彼女の心に不安が広がり始める。
明美たちは続きを語るべく、廊下を進んだが、次の瞬間、周囲が急に冷たくなるのを感じた。
外からは聞こえない冷気が彼女たちを包み込む。
その時、グッと強い耳鳴りが響きわたり、彼女たちは物理的な圧迫感を覚える。
「明美、もう帰ろうよ。」中村が不安そうに囁いた。
明美はその言葉に同意し、廃墟を出ようとする。
しかし、出口への道は急に長く感じられ、まるで誰かが引き留めるように思えた。
何か影が背後にいる感覚に耐えかね、彼女は振り返った。
そこには、旅館の女性の幽霊が立ち尽くしていた。
彼女の目は、悲しみに満ち、口元は何かを言おうとしているように見えた。
しかし、その言葉は届かなかった。
「行こう、明美！」中村が声を張った。
彼女は我に返り、廃墟を何とか離れようと必死に走り出す。
友人たちも同様に逃げ、明美は身体全体を冷や汗が覆うのを感じた。
外に出ると、月明かりが彼女たちを包み、安心したように感じた。
しばらく走った後、振り返ると、廃墟はただの暗闇に溶け込んでいた。
何かが彼女たちを追っていたわけではないと知ることができたが、心に残る恐怖は消え去らなかった。
それ以降、明美はあの廃墟には二度と近づかないと誓った。
しかし、夜になると、彼女の夢に思い出の中の女性が現れ、静かに彼女を見つめているのだった。
彼女は、自らの運命を受け入れることなく、明美の心に記憶として刻み込まれていた。
