「影食堂の謎」

ある町の外れに位置する小さな村には、古びたレストランが一軒佇んでいた。
その名は「影食堂」といい、数十年前に営業を始めたと言われていたが、最近はほとんど客が訪れない場所となっていた。
レストランの外観はどこか不気味で、周囲の草木は長い間手入れされていない様子で、廃れた雰囲気を醸し出している。

村の若者である大輔は、そんな影食堂に興味を持った。
彼は友人たちと一緒に肝試しに行こうということになり、恐る恐るその場所に向かうことにした。
夕暮れ時、薄暗くなる前に影食堂へとたどり着いた一行。
扉は固く閉ざされていたが、窓越しに中を覗くと、長いテーブルにはいくつかの皿が置かれていた。
まるで誰かが食事をしているかのように、影がその上に横たわっている。

「お前、入ってみろよ。」友人の健が冗談交じりに言う。
しかし、大輔は肝試しとは言え、何か不気味なものを感じていた。
「やめておこうぜ。なんか、嫌な感じがする。」彼の意見に対し、他の仲間たちは笑い飛ばし、結局健が一人で扉を開けることにした。

それまで静かだった空気が一変し、食堂の中から微かな音が聞こえてきた。
「る、る、る……」それはまるで、誰かがささやいているかのようだった。
大輔は心臓が高鳴り、思わず後ずさったが、健は興味津々で中に入っていった。
友人たちも続くように、その後に続いたが、大輔だけは入り口で躊躇していた。

彼の目の前に、どことなく影のような、ぼんやりとした形が立っているのが見えた。
それが何か本物の人間なのか、ただの幻影なのかはわからなかったが、その形は動かず、じっと大輔を見つめているように感じた。
彼は「行かない、行かない」と自らの心を落ち着かせるように呟いたが、恐ろしさに窓越しにその形を見つめることしかできなかった。

健の声が響く。
「何か食べるものあるのかな?」その言葉と同時に、影食堂の中には一瞬、鮮やかな光が差し込んできたかと思うと、白い洋服をまとった女性の形が現れた。
彼女は微笑んでいるようだったが、その笑顔の奥には、何かうっすらとした悲しみが漂っていた。
彼女の目が、大輔の心に直接響くようだった。
彼は自分の心の奥深くにある「恐れ」を感じた。

その夜、彼らはそのまま食堂の中で数時間を過ごした。
しかし、次第に周囲の空気が重くなり、何か不穏な気配が漂ってきた。
影食堂にいる限り、彼らはどこか別の場所に迷い込んでいるかのようだった。
影のような存在が大輔の心の中に入り込んでくるように感じられ、彼は耐えきれずに外に逃げ出した。
すると、友人たちの姿が消えていることに気づく。

焦りと恐れの中で大輔は走り出し、村に戻り、誰かを探そうとした。
しかし、村は静まり返っていて、誰も彼に近づいてこなかった。
民家の窓から、彼は一人また一人と消えていく友人たちの姿を見つけた。
彼らが影食堂の中に吸い込まれていく様子は、まるで深い闇に飲まれていくようだった。

数ヶ月後、大輔はあの日のことを忘れられなかった。
影食堂は村の外れに静かに佇んでいたが、風雨にさらされて、さらに廃れた印象を増していた。
しかし、時折、そこに足を運ぶ人々がいた。
彼らは「影食堂の噂」を語り継ぎ、恐れを抱きながらも、その影の様子を見ては不思議な思いを抱いていた。

影食堂は、今もなお村の中で静かに存在し、人々に語られ続けている。
そこには、かつての客が残した影や思いが、形を変えて漂い続けているのかもしれない。
それは、語られることなく封じ込められた物語であり、形として存在し続ける何かではないだろうか。

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