狛という名の少女は、村のはずれにある古い家に住んでいた。
彼女の家は、村人たちから孤立しており、まるで時間が止まったかのような静けさが漂っていた。
村人たちは狛の家のことを知ってはいたが、その裏に隠された謎に触れようとする者はいなかった。
彼女はいつも一人でおびえながら過ごしており、時折、帰ってくる気配が聞こえた。
家の中にいるのは彼女なのに、まるで誰かが側にいるかのようだった。
ある日、狛がふと窓の外を見ると、明るい光が目に飛び込んできた。
その光は、村の神社から放たれているようだった。
神社は普段静まり返っており、明るさを放つことなど一度もなかった。
好奇心に駆られた狛は、胸の高鳴りを感じながら神社へ向かうことにした。
彼女の心には、ある願いがあった。
それは、自分自身の正体を知りたかったからだ。
神社に着くと、光はますます明るくなり、狛を引き寄せるように感じられた。
神社の境内には、古びた石像が並んでおり、その中には彼女が知る誰とも似ていない顔が彫られていた。
狛は不安を感じたものの、もう後戻りできなかった。
彼女はその石像の前に立ち、そのまま目を閉じた。
周りの空気が変わり、狛は一瞬、温かい光に包まれた。
目を開けると、彼女の目の前に幼い自分自身が立っていた。
驚きと嬉しさの中で、狛は、自分が過去の自分に出会ったのだと理解した。
しかし、その子は何か違和感を抱えているようだった。
「私は狛、あなたは私?」
幼い狛は無言で頷き、彼女の手を取った。
そして二人は、神社の奥へと進んでいった。
暗く狭い通路を抜けた先には、白く光る祭壇が待っていた。
狛はその光に引かれるように近づき、彼女の意識はその瞬間、作り上げられた世界に引き込まれた。
異世界の中で、狛は無数の選択肢の前に立たされていた。
「どれか一つを選べ」と声が響いた。
狛は躊躇いながらも、自分自身を知るための選択をしてゆく。
だが、どれを選んでも彼女を迎えるのは、自分自身の影だった。
影は彼女に向かって囁いた。
「自分を知りたいのか? あなたの過去、そして未来。全てここにはある。しかし、それを知ればあなたは呪われる、果たして知りたいのか?」
狛はその言葉に怯えたが、彼女の心の中には知りたいという欲望が生まれていた。
「知りたい」と彼女は答え、影は笑うようにかすかに揺れた。
影は狛に向かって手を伸ばした瞬間、狛は術にかけられたように思った。
彼女はその手を取ることができなかった。
目が覚めたとき、狛は神社の外にうずくまっていた。
彼女は自分が何を選び、何を体験したのか思い出せなかった。
周囲は静まり返り、何事もなかったかのように思えた。
しかし、彼女の胸の奥には消えない不安が宿っていた。
それから数日後、村では奇妙な現象が発生し始めた。
狛が見た明かりは、彼女の存在を照らすものであり、彼女自身の目には見えなかった。
村人たちは、夜の神社から聞こえてくる子供の笑い声に怯えるようになった。
そして、狛はその影響を受けていた。
彼女の中には、かつての自分が封じ込められており、影は彼女の行動を操るようになっていたのだ。
狂おしい嫉妬や恨み、そして自分自身を知りたいという想いが、狛を苦しめ続けた。
彼女は選んだことを後悔はしていたが、もう遅かった。
村人たちの記憶からも消え、狛は神社の影に飲まれ、ただの噂となる道を選んだ。
明かりは村に届き続け、彼女の姿は誰からも見ることができなくなった。
ただ、夜の神社の奥には、彼女を待ち続ける影がいまだに見え隠れしているのだった。