祖父の家は、私が幼い頃から特別な思い出が詰まった場所だった。
北海道の片田舎にあるその家は、古びた木造の二階建てで、道を挟んだ向かいには広い田んぼが広がっていた。
道端には、祖父が手入れしていた小さな庭があり、季節の花々が咲き誇っていた。
私にとって、祖父の存在は安全で温かいものであり、彼の物語を聞くことが何よりの楽しみだった。
その日も、祖父は私を古い書斎に呼び寄せた。
彼はその部屋で長い間大切にしていた本を取り出し、ページをめくりながら話し始めた。
「この本には、私が若い頃に体験した不思議な話が載っているんだ。」そして彼は、私の心を惹きつけるような、過去の暗い影に満ちた物語を語り始めた。
祖父は、戦時中に見た「破」壊された村の話を始めた。
彼は、仲間とともに一つの村を訪れたが、村はすでに壊滅状態で、人々の姿はどこにも見当たらなかった。
その村で、彼は不気味な感覚を覚え、不安に駆られた。
だが、好奇心から村の中心にある古い神社へ向かった。
神社の入り口には、破れたお札が掲げられ、まるで何かが封じ込められているような雰囲気が漂っていた。
私はその話を聞きながら、祖父の表情から恐怖を感じ取っていた。
「彼はその神社で不思議な現象を体験し、その後、経過が変わった。」祖父はそう続けた。
「その夜、薄暗くなった村の中で、不気味な声が聞こえ、幽霊のような影を見ることになったんだ。村に住んでいた人々の未練や怒り、それが私の目の前に現れた。その影は、破壊された場所に住んでいた人たちの姿に変わり、彼らの叫びが耳に残った。」彼の声は震え、私はその光景を想像することもできなかった。
祖父が話を終えようとした瞬間、ふと彼の顔が暗くなった。
「その影を見たことで、私たちは決してその村へ戻ることができなくなった。私の仲間はその後、玩具のような人々に取り憑かれ、私もまた、思い出すことを許されずにいる。」私は、祖父の言葉の意味を理解できずにいた。
彼が抱える過去の重荷が、今も彼を苦しめていることがわかった。
その夜、私は眠れぬままに目を閉じた。
寝室の窓からは月明かりが差し込み、幻想的な雰囲気を醸し出していたが、どこか不気味で、私の心をざわつかせた。
突然、ぼんやりとした影が視界に入ると、私は思わず目を見開いた。
影はじわじわと近づいてきて、まるで誰かの視線を感じるかのようだった。
祖父の語った村の影が、私の目の前に浮かび上がってきたのだ。
恐怖を感じながらも、その影を見つめ続けると、私は確かに祖父の言葉が現れたように思えた。
「なぜ忘れたの?」という声が耳に響き、私は全身が凍りついた。
私の心には、祖父の物語の真実が照らされた瞬間だった。
暗闇の中で何かを受け取り、私もまた過去を知覚しているような気がした。
しかし、目が覚めると、影は消えていた。
私の心は揺れ動き、過去の影が再び私の心を侵略してくるように思えた。
祖父の存在を失わずに、どうやってこの思いを理解すればよいのだろうか。
それでも、私は決意した。
祖父の物語を受け入れ、彼の経験を背負い、その重荷を一緒に背負って生きると。
破壊された村の影を忘れずに、未来へと進むために。