夜、薄暗い街角に響く物音。
動はその音の正体を確かめるため、静かに足を進めた。
彼の周囲には、まるで人々が目を背けているかのように、誰もいなかった。
崩れかけの建物や古びた自販機が、影のように立ち並ぶ中、彼の心に不安が忍び寄る。
しかし、好奇心が彼を駆り立てた。
その日、学校で友人たちが語っていた不気味な噂が頭を離れなかった。
「あの街角に、物を持った影が現れるんだって。」誰かが言った。
それは、自分の思っている物に触れた者に、恐ろしい解をもたらすのだと言う。
動の心に湧き上がるのは、恐れよりも挑戦の気持ちだった。
彼はその影を見てみたかった。
彼はついに街角にたどり着いた。
そこには、黒い影がうっすらと浮かんでいた。
それは、まるで物を持っているかのように見えた。
男の形をしたその影は、動の視線を引き寄せるが、近づくと急に感じる冷気が圧倒的だった。
心臓の鼓動が速くなっていく。
「お前も、『物』を持っているのか?」動は、恐る恐るその影に問いかける。
しかし答えはない。
ただ、影はゆっくりと彼に近づいてくる。
背筋が凍るが、動はその場を離れることができなかった。
少しずつ、影は彼の前に現れた。
そして、その瞬間、動は「物」の正体を知った。
それは、彼が失くしたはずの、小さな玩具だった。
幼い頃に大切にしていたもので、忘れがたく思い出深い。
影はその玩具を持っているようであり、彼を見る目に何か訴えるものがあった。
だが、その影の周りには、どこか陰うつな雰囲気が漂っている。
「私が解いてほしいことがある…」動はその瞬間、自らの内なる声に耳を傾けた。
不安を感じながらも、その影に引き寄せられるように近づいていく。
影の体に触れることで、何かが解決するかもしれない、そんな希望が芽生えたのだ。
しかし、その瞬間、影が動き始めた。
動は驚きに目を見張ると、何か冷たいものが自分の体に触れてくる。
まるで、何かが彼の命を吸い取るような感覚。
「逃げろ!」という声が心の中で響いたが、その声はすぐに消えた。
影の力が、彼を捉えて離さない。
彼は恐怖に包まれ、自らの意識が遠のくのを感じた。
気がつくと、動はあの場に立っていたが、周囲は変わってしまっていた。
彼が見ていた街角は、静まり返り、朽ち果てた廃墟になっていた。
そして影は、今や彼自身の影となっていた。
「何が起こったのか?」動は立ち尽くし、思考が混乱に陥った。
彼は、その影が自分の一部であり、切り離せない存在であることを理解した。
彼はその解を解決することを選択するしかなかった。
影は彼を求め、彼はまた影に返さなければならない。
動は恐れから逃れられず、ついにはその影の一部となってしまったのだ。
それからのことは誰にも知られなかった。
街角には再び足音も声もなく、不気味な静けさが漂っている。
動の影は、今や「物」として、その場所に留まり続けている。
この街に足を踏み入れた者たちは、いつの間にか影に吸い込まれ、動と共に消え去っていくのだった。