「影の行く先」

月明かりが道を静かに照らす夜、祐介はふと不安を覚えた。
この道は彼がよく通る帰り道だったが、今夜はいつもとは何かが違っていた。
終わりのない暗闇が彼を包み込み、どこか冷たい空気が身体を冷やしていく。
そんな時、彼の視界の隅に、一つの影が横切った。

最初はただの幻影かと思ったが、次第にその影は目の前の道を歩いているのだと気づいた。
影の姿は人の形に似ているが、顔や手足はぼやけていて、まるで薄い煙のように不定形だった。
祐介は立ちすくみ、思わず後退した。

「だ、誰だ?」彼は震える声で囁いた。
しかし、影は何も答えず、ただ道を進んでいく。
祐介はその影に惹かれるように足が動いたが、同時に恐怖が胸を締め付けた。
影はとても不気味で、その存在感はまるで己の内面を映し出す鏡のようだった。

影が進む先には、道の分かれ道が見えてきた。
祐介は、その影を追いかけていくうちに、嫌な予感を感じていた。
影を見失わないように細心の注意を払いながら、彼は思わず自らを振り返った。
しかし、背後にはただの静寂しかなかった。
誰もいない夜道なのに、彼は明らかに誰かに見られているような気配を感じていた。

その影は、分かれ道の先で立ち止まった。
祐介もまた、息を整えながら彼方を見つめる。
「お前は何者なんだ?」と再び問いかけるも、影は動かず。
ただ風に揺れる木々の音が、彼の不安を煽る。
影が現れるたびに、心に潜む恐れが呼び起こされていく感覚に、祐介は耐えきれずに目を閉じた。

「己とは?本当に私の求める姿なのか?」次第に声なき声が自分の中から湧き上がる。
「合わない自分、ルールの中で縛られ、誰にも理解されない私。」そんな独り言が、影となって彼の心の中に広がっていく。

その瞬間、影が急に振り返り、まるで彼に向かって手を差し伸べるように感じられた。
祐介は心が震え、恐怖から思わず叫んだ。
「近づいてこないで!」影は静かに退いていったようで、まるで彼の叫びを理解したかのようだった。
しかし、だんだんと影は立ち去ろうとする中で、心のどこかが安堵へと変わっていくのを彼は感じた。

「お前は、逃げないのか?」影は、不気味な声で囁いているように思えた。
祐介はその言葉を聞き、自分自身を振り返るとともに、己の中で何を終わらせようとしているのかに気づいた。
それは、自分自身に向き合うこと、否定の先にある解放なのだ。

祐介は、影に向かってこう言った。
「私も認めるよ、私の弱さも、恐れも、全てを受け入れるつもりだ。」その瞬間、影の表情が変わったかのように思った。
影は、彼の願いを受け入れるように微笑んでいるかのように見えた。

不意に影が姿を消し、暗闇に溶け込んでゆく。
その瞬間、祐介は自らの胸の内にすっきりとした感覚を覚えた。
彼は影と向き合うことで、自分自身を受け入れ、新たな自分を見つけることができたのだ。
道は再び静かになり、月明かりが優しく彼を包み込む。
祐介はその道を自信を持って歩き続けることができた。
影との出会いが、彼に奇妙な真実を教えてくれたのだった。

タイトルとURLをコピーしました