「影の瞳に奪われた魂」

ある寒い秋の夜、東京の郊外にある古びたアパートで、藤田直人は一人暮らしをしていた。
彼は大学の図書館でアルバイトをし、家に帰ると決まって本を読んで過ごす内向的な性格だった。
そんなある日、彼の周りで不可解な現象が起こり始めた。

ある晩、直人が読みかけの本に没頭していると、ふと視界の端に影が動いた。
何かがいると感じ、視線を向けるが、そこには何もない。
ただの薄暗い部屋と、彼の本だけが存在していた。
最初は気のせいだと思った直人だが、日が経つにつれ、その影はあちこちに現れるようになった。

影は、一瞬だけちらりと見えることが多く、特に彼が一人でいる時に現れた。
心が不安になり、直人は友人の佐藤に相談することにした。
「最近、変な影が見えるんだ。何かのストレスかな」と言うと、佐藤は心配そうに彼を見て、「睡眠不足じゃない?少し休んだ方がいいよ」とだけ返した。

しかし、影の正体が何なのかを知りたいという好奇心が捨てきれず、直人は自分で調べることにした。
ネットで「影 霊」「影 不吉」と検索した結果、彼はある都市伝説にたどり着く。
それは、ある者の瞳を奪う影の存在に関するもので、「その影に目を付けられると、魂を失う」というものだった。

直人は動揺を隠せなかった。
このまま放っておいたら、自分も知らず知らずのうちに影に目を付けられ、魂を奪われてしまうのではないか。
その考えは彼の心を占め、日常生活にも影響を及ぼし始めた。
彼は次第に外に出ることが苦痛になり、家に籠もる時間が増えていった。

そんなある晩、直人は再びあの影を感じた。
いつもとは違い、その影は彼のすぐそばにあった。
恐怖を感じた直人は恐る恐る振り返ったが、そこには誰もいない。
しかし、彼の心には確固たる存在感を持ったその影の瞳が、彼をじっと見つめているように感じられた。

「魂を抜き取るのは易しいことだ。お前の瞳が私に語りかける。」直人には声が聞こえた。
その瞬間、恐怖が全身を駆け巡る。
彼は立ちすくみ、部屋の中のものが全て霧のように消えていく感覚を味わった。

直人は必死になって逃げようとしたが、影は彼の動きを封じた。
瞳の奥に吸い込まれるような感覚が襲い、彼はその瞬間、何か大切なものが失われていくのを感じた。
周りの景色が歪み、影が大きくなっていく。
彼の恐怖心を代償に、少しずつ直人の意識が薄れていった。

その翌日、直人はいつも通りの生活をしようとしたが、自分が失った何かを実感していた。
周囲の人々の目が、自分に向けられているのを感じていたが、何かが欠けているため、心の奥には不安が広がっていた。
彼は友人たちの声や笑顔を感じ取ることができず、自分がどこか遠くから眺めているようだった。

影は彼の中で生き続け、結局、その影に自らの魂の一部を代償として差し出したことに気づいた直人は、もう戻れないことを悟った。
彼は影から逃れられない運命を受け入れつつ、どうにかしてこの影の呪縛から解放されたいと願っていた。

その後、直人は影の存在から逃れるための手段を探し始めたが、果たしてそれが彼にとってどれほど困難かを知る由もなかった。
彼は日々失われていく感情や思い出、そして最大の失敗である「魂の欠如」を埋める方法を求め続けることになった。
その影は、彼にとっての永遠の存在となったのだった。

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