「影の灯台」

創は、町外れの古びた灯台を訪れた。
小さな漁村に伝わる怪談を聞きつけ、実際にその場所を見たくなったのだ。
昔、強い嵐の日に灯台の点灯士が道に迷った漁船を救うために灯をともしたが、その後、その灯台は奇怪な現象に見舞われるようになったという。
噂によると、彼の影が灯台の周りをさまよっているらしい。

薄暗い道を歩きながら、創は自分の好奇心がどんな結果をもたらすのか思いを馳せた。
海の音が心地よく響く中、彼は不安を感じながらも灯台に到着した。
灯台は意外にも整っていて、昔のままの姿が保たれていた。
しかし、周囲は湿気と草に覆われており、見るからに不気味な雰囲気を醸し出していた。

灯台の入口のドアは、重く感じられたが、押すとすぐに開いた。
中に入ると、薄暗い内部に目が慣れるまで、しばらく時間がかかった。
その瞬間、創の視界に飛び込んできたのは、まるで別の空間のような広がりを持つ部屋だった。
壁には、忘れ去られたような物が並び、そこには灯台の歴史を語る影が映し出されていた。

そんな中、創は何かが違うと感じ始めた。
部屋の隅にあった古い鏡が不自然に揺れているように見えたのだ。
近づいてみると、その鏡の中には自分の影書かれた一文が映っていた。
「束縛されし者よ、影を飛び越えよ」と書かれていた。
創は驚き、心臓が高鳴ったが、同時に好奇心がそれをかき消した。

呟くように言った。
「束縛されし者…私のこと?」そう思うと、急に胸が重くなり、何かに押し込まれるような感覚があった。
と、その時、突然、鏡の中から影が飛び出してきた。
薄暗い空間の中で、成長する影は創を囲み、身動きが取れなくなった。

「束縛されているのは君だけではない」と、影が冷たい声音で囁いた。
創はその言葉が意味するところを理解できず、恐怖だけが心を支配する。
目の前に立つ影は、まるで灯台の点灯士そのもののようだった。

彼は必死に抗おうとするが、影は彼の感情を巧妙に束縛しようとしていた。
逃げようにも、急に持ち上げられたかのように、創の体は浮かんでしまった。
古びた灯台の中で、彼の視界はぐるぐると回り、何が現実で、何が幻か分からなくなっていく。

「私の存在に気付き、心の束縛を解き放たねば、永遠に共にいることになる」と影は告げた。
創は必死に考えた。
束の意味。
おそらくそれは、過去のトラウマや無力感を意味しているのだ。
彼は自らの影と向き合うため、心の奥底で呼びかけた。
「私はもう束縛されない。自由になる!」

その瞬間、彼の意思が強くなり、影は彼の体から引き裂かれるように飛び去った。
バーンという音が響き、灯台内の光が一気に定まった。
創は地面に落ちて、息を切らしていた。
彼の周囲には、崩れ去った影たちが消え、穏やかな静寂が広がっていた。

創は立ち上がり、鏡をただ見つめた。
彼は、自分自身を取り戻したのだ。
灯台の呪縛から解放された彼は、海岸に向かって足を運ぶ。
そこには暗闇の中に優しく揺らめく灯が、道を照らしていた。
その光を信じながら、彼は新たな一歩を踏み出したのだった。

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