美しい夏の日、大阪の静かな住宅街に住む佐藤美紀は、最近不気味な夢を見るようになっていた。
それは、黒い影が彼女の周りを徘徊し、何かを訴えかけるような夢だった。
目を覚ますと、汗でびっしょり濡れたシーツと、心臓が激しく鼓動しているのを感じた。
ある日、美紀は夢見た影を思い出し、自分の中にある不安を解消するために、友人の春菜を誘って富士山の麓にある古い神社に行くことにした。
その神社は、かつて火災によって destroyed(壊され)た場所で、不幸な出来事が多く報告されていることで知られていた。
二人は何も気にせず、流れるような川の音を聞きながら、神社の方へ向かって歩いていった。
神社に到着すると、木々に囲まれた神社は薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
美紀はその場の異様な空気に少し怯えながら、神社の中を探検することにした。
春菜が「ここ、なんだか不気味だね」と言った瞬間、神社の奥から低い声が聞こえてきた。
「私を助けて…」
振り向くと、神社の一部が燃え盛っていた。
炎が上がっている場所は、かつて神聖な儀式が行われたとして大切にされていた場所だった。
興味本位で近づく二人は、炎の中にかつての神社での悲劇を思い出させる影が見えるのを感じた。
それは、かつてこの地で生贄にされた少女の姿だった。
少女は、美紀の目をじっと見つめていた。
美紀はその瞬間、夢で見た影が、自分を呼んでいるのだと理解した。
彼女は、何かを感じ取るように手を伸ばし、燃える影に歩み寄ろうとしたが、春菜が彼女の腕を掴んだ。
「やめて!何か悪いことが起きそう!」
その瞬間、燃え上がる炎が急に強くなり、美紀の周囲は赤い光に包まれた。
彼女は混乱し、抵抗するが、何かに引き寄せられるように目を閉じた。
その瞬間、夢で見た声が頭の中に響いた。
「私を助けて、不幸にしないで…」
気がつくと、燃える場所が消え、静寂が戻った。
その場には春菜の姿だけが立ち尽くしていた。
美紀は、闇に引き込まれたのか。
彼女の頭の中の声が繰り返す。
「あなたは私ではない、助けて…」
春菜は恐れおののき、神社から逃げ出そうとした。
しかし、美紀の姿が見当たらない。
「美紀!」と叫ぶ声が空にこだまする。
振り返ると、あの黒い影が再び現れ、彼女に向かって言った。
「私を助ける者を待っている。」
美紀は気がついた。
何が起きているのか、彼女の意識は限界に近づいていた。
そして、彼女の取った行動とは、影を突き放すのではなく、影となってしまったのだった。
彼女はもはや、美紀ではない。
彼女の意識は燃え盛る影と共に、永遠にこの場所に留まることとなったのだ。
春菜は警察に助けを求め、神社は封鎖されたが、誰も美紀の行方を知ることはなかった。
人々はこの場所を避けるようになり、噂は広がっていった。
神社の近くを通る人々は、時折耳にするという。
「私を助けて…」という声を。
やがて、人々はこの神社を「忘れ去られた火の神社」と呼ぶようになり、美紀の存在は、忘却の中へと消えていった。
しかし、その神社を訪れた人々の中には、時折黒い影を見る者が現れるという。
それは、あの少女の影なのか、美紀の影なのかは誰にもわからない。