「影の止まり木」

止まり木のように静まり返った村、祖父の家の裏には、誰も踏み入れることのない場所があった。
若い頃から、祖父はその場所を「止」と呼び、決して近づくなと厳しく戒めていた。
村人たちもその言葉に従い、そこには深い森と古い石が眠るだけで、長い間誰も訪れたことがなかった。

ある夏の暑い日、私(優一)は祖父が眠る小さな家に帰省していた。
祖父の話を聞くのが好きだったが、その「止」にまつわる話が特に印象に残っていた。
彼はいつも影があるかのように、その話を曖昧にしながら語り、その場所の恐ろしさを語った。

「そこに行くと、呪われる」と祖父は言った。
その呪いが何を意味しているのか、子供心に想像するだけで恐怖が湧き上がった。
興味本位で動くことはできなかったが、その晩、薄暗い部屋の中で、村の外れにある「止」のことが頭から離れなかった。

翌日、祖父が昼寝をしている間に、私は思い切ってその場所へ行く決心をした。
ドキドキしながら、家を出て、古びた小道を進んだ。
森の奥へ入ると、周囲は徐々に静けさに包まれ、太陽の光がもはや届かない場所にやって来た。

「ここが止か」と呟き、周囲を見渡す。
そして、目の前には古びた石が鎮座していた。
周囲の木々は言葉を失ったかのように静まり返り、その石を囲むように生えている影は、まるで何かが守っているかのように感じられた。

石の側に近づくと、突然背筋が寒くなり、強烈な違和感が全身を襲った。
影が動くように感じ、何者かがそこにいるような気配がした。
「これが祖父が言っていた呪いなのか?」呟くと、同時に耳元でかすかな声が聞こえた。
「来るな…」

心臓が高鳴り、恐怖で動けなくなった私。
振り返ろうとした瞬間、誰かの手に抑えつけられる感覚がした。
振り払おうとするが、影はまとわりつくように動く。
目の前には、かつて祖父が語っていた村の亡霊のような影が現れた。

「あなたは何をしにここに来た?」影は冷たく問うた。
私の心は恐れでいっぱいだったが、なぜかその声の背後に哀しみが感じられた。
「私はただ…祖父の言葉を確かめたくて…」と、思わず言った。

影は私の言葉を静かに受け止めると、「この場所には、裏の思いが込められている。村人たちが恐れ、忘れ去った記憶を持っている者たちがここに集まり、呪いをかけ合っているのだ」と続けた。
「あなたはそれを背負う覚悟があるのか?」

言葉を失い、すぐに逃げ出したい衝動に駆られたが、何かが私をその場に留まらせていた。
そこに立つ影は、私にとって未知の存在であったが、同時にどこか懐かしさを覚えるような声だった。
祖父の影が見え隠れしたのだ。

「優一、祖父を忘れないで」その一言が頭に響く。
影の中に、自分自身が祖父の記憶を背負っていることを理解させられた。
村人たちが恐れた歴史を生き延びた者たちの思いを、私はどうにかしなければならない。
私自身がその呪いを解く鍵なのではないかと気づいた。

その瞬間、影は急速に消え去り、周囲は静寂に包まれた。
心臓が早鐘を打ち続けていたが、一つの決意が生まれた。
村の歴史を語り直すのは、私の使命であると。
私はゆっくりとその場を離れ、帰り道を急いだ。

その夜、祖父は私に微笑んだ。
「行ったのか、止に」その言葉に、未来を見据える決意が込められているのを感じた。
裏に隠された思いを解きほぐし、村の呪いを解くことこそが、真の家族の絆を深める道なのだと。
私の心には、その影がいつまでも残っていた。
そして、祖父の言いたいことが少しずつ分かり始めていた。

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