「影の村の囚われし者たち」

瑠璃町には、昔から語り継がれる不思議な現象があった。
それは、「影の村」と呼ばれる場所で、そこに足を踏み入れた者は、決して戻ってこないと言われていた。
町の外れにある小さな森の中に、ひっそりと佇むその村は、常に霧に包まれている。
村を訪れた者の話では、そこには長い間誰も住んでいないはずの家々が立ち並び、まるで過去の住人たちがまだそこに存在しているかのようだった。

ある夏の夜、大学生の翔太は、友人の真希に誘われて肝試しに行くことにした。
二人はホラースポットとして有名な影の村を訪れようと決めた。
「どうせただの噂でしょ?行ってみようよ!」翔太が言うと、真希も「そうだね、ちょっと面白そうだし」と興奮気味に返す。

暗くなるまでに村に着くと、周囲は静まり返り、どこからともなく不気味な風が吹いてきた。
村に入り込むと、古びた家々が立ち並ぶ光景が目に飛び込んできた。
「本当に誰もいないのかな?」翔太は不安になりながら問う。
真希は笑って、「多分、ただの噂だよ」と答えたが、心のどこかで警戒しているようだった。

二人は村の奥へと進んでいった。
突然、真希が「見て!」と小さな家の前で立ち止まった。
家の扉は半開きで、内部から微かな声が聞こえるような気がした。
「ここに入ろうよ」と真希が言うと、翔太は「本当に大丈夫?」と躊躇ったが、結局彼女の背中を押される形で家の中に入った。

屋内は薄暗く、埃まみれだった。
しかし、その中に立っていたのは、何か古い絵のようなもので、何かが描かれている。
それは、かつてこの村に住んでいた人々の姿であった。
しかし、その絵の中の人々はどこか無表情で、まるで命を失ったかのように見えた。

「これ、怖いね…」翔太がつぶやくと、真希も「うん、不気味だね」と同意した。
しかし、彼らが絵を見つめていると、突然、壁に描かれた人々の目が動いたように感じた。
「気のせいだよね?」翔太が緊張した声で言うと、真希は「うん、気のせいだと思う」と言ったが、彼女の声も震えていた。

その時、彼らの背後で扉がガタンと閉まった。
二人は驚いて振り返ると、外は霧に包まれ、もはや出られそうにない。
ただ、微かなささやき声が周囲から聞こえてくる。
「助けて…私たちを…」翔太は恐怖で心臓が高鳴り、真希も怯えた様子で前を見つめていた。

「出よう、ここから!」翔太は焦りながら、扉を叩いた。
しかし、扉はびくともしない。
「どうしよう、翔太…」真希が声を震わせた。
その瞬間、廊下の奥から人影が近づいてくるのが見えた。
それは、村の人々の姿を持っていたが、その目は虚ろで、まるでここに囚われているかのようだった。

「私たちの仲間になろう…ここから出ていくことはできないから…」低い声でささやく者たちの声に、翔太と真希は恐怖に震えた。
彼らは手を取り合って後ずさりするが、さまざまな影が迫ってきた。

どれほど時間が経ったのか、二人はなす術もなく、次第にその影に飲み込まれていった。
「もう帰れないんだ…ここにいるしかないのか…」翔太は真希の手を強く握り、彼女の目を見る。
「絶対に離さないから!」だが、その言葉も虚しく、彼女の姿が次第に薄れていくのを感じた。

次の瞬間、翔太は目を覚ました。
周囲は静寂で、彼は一人きりだった。
村はいつも通りの状態に戻っていたが、彼の心には恐怖が残った。
数日後、友人たちが彼を心配して訪れたが、翔太の口からは真希のことが出てこなかった。
ただ、彼は影の村からの帰り道を振り返る。
そして、そこで見た無表情の人々の絵が、再び心に浮かび上がった。
彼はその時、村に何が起こったのかを知ることはなかった。

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