田舎町の片隅に、昔から神社があった。
その神社は地元の人々にとって特別な場所であり、毎年秋になると祭りが開催されていた。
今年もその祭りの日が近づいていたが、一人の女性、由紀は心の底からその日を楽しみにしていた。
由紀は幼い頃から神社の祭りが大好きで、町の人々と一緒に過ごす時間が何よりの喜びだった。
しかし、最近、彼女の心を占めるのは、同じ町に住む友人の美穂の存在だった。
美穂はいつの間にか町の人気者になり、由紀にとっては嫉妬の対象となっていた。
祭りの準備が進む中、美穂は特に注目を浴びる存在だった。
彼女の明るい笑顔と華やかな衣装は、見る人々を魅了した。
由紀はその姿を見つめるうちに、次第に心の中にわだかまりが生まれていった。
自分が美穂のようになれないことへの妬み、羨望、それは日々増していくばかりだった。
そんなある夜、由紀は神社の境内で独り、呟きをこぼしていた。
「美穂なんて、どうせ私にとっては敵なのだから…」その瞬間、何者かが背後に忍び寄る感覚を覚えた。
振り返ると、一人の年老いた巫女が立っていた。
彼女は由紀の言葉を耳にし、静かに微笑んだ。
「あなたの心に巣食うその感情、手放すことはできるかしら?」
由紀は戸惑いながらも、すぐに首を振った。
「無理です…彼女の幸せが私を苛む。どうしたらいいのかわからない。」
巫女は由紀の目をじっと見つめた。
「妬みは時として、あなた自身を蝕む。私が手伝おう。しかし、その代償は必ず伴うことを理解するのかしら?」
由紀はその言葉に迷ったが、美穂に対する想いが彼女を突き動かした。
「お願い、何でもします。」
巫女はその夜、由紀の手を取った。
「では、今夜、神社での儀式が始まるわ。」
祭りの夜、由紀は神社の本殿に向かった。
周囲は賑わっていたが、彼女の心は不安に包まれていた。
儀式の準備を進める巫女は、由紀に一粒の黒い石を手渡した。
「これを美穂に投げつけて。彼女の幸せを溶かすために、ここに秘められた嫉妬の力を感じるのよ。」
由紀は石を握りしめ、指先が震えた。
美穂が笑い声を上げ、他の人々と楽しそうに過ごしている姿を見つめた。
その瞬間、心の奥底から渦巻く嫉妬の感情が彼女を捉え、まるでそれが彼女自身を引きずり込むかのようだった。
祭りのクライマックス、由紀は意を決して、石を美穂に向けて投げた。
石は美穂の足元に落ちた瞬間、空気が震え、周囲の光景が一変した。
美穂の周りの人々は次々に倒れ込み、彼女だけがその場に残されていた。
美穂の笑顔が消え、彼女の目は恐怖に満ちていた。
由紀はその光景に満足感を覚えたが、まもなく取り返しのつかないことをしてしまったのだと気づいた。
美穂は一瞬にしてその場から姿を消し、ただの影となった。
その夜以降、町から美穂の姿は完全に失われ、周囲の人々は彼女の話をすることすらなくなった。
由紀はその責任を背負い、心に空虚感を抱えた。
彼女が望んだ嫉妬の解消が、代償として美穂の命を奪ってしまったのだ。
巫女が告げた通り、由紀の心の中には今や後悔が巣食っていた。
かつての友人に対する嫉妬が、代償を払わせたことを知り、彼女は一人、神社の静寂に包まれて座り込んでいた。
妬みがもたらした不幸は、彼女自身をも蝕んでいるのだった。