かつて、古ぼけた村がある場所に「執念の寺」と呼ばれる場所が存在していた。
その寺は、何世代にもわたり村人たちによって敬われ、同時に畏れられていた。
寺の本堂には、強い執念を持つ者たちが集まっては願いをかけ、成就した者はその恩恵を村に分け与えると信じられていた。
しかし、その寺には、ひとたび執念を持った者が敬意を失い、欲望に耽ると、恐ろしい現象が待ち受けていた。
ある秋の日、若い商人の「健二」は、貧しい村で暮らす家族を養うために、何とか成功を収めようと願った。
彼は、執念の寺の伝説を聞き、その力を借りることを決意した。
健二は、寺へと足を運び、見知らぬ人々の息遣いの中で、重々しい本堂の扉を押し開けた。
寺の内部は、薄暗く、埃で覆われた仏像が並んでいた。
彼は、その中心にある大きな仏像の前に跪き、心の底から願いをかけた。
「どうか、私に成功を与えてください。家族を養うための富をください。」その瞬間、空気がピリピリと震え、何かが彼の心に入り込むのを感じた。
しかし、その後、健二の運命は一変した。
彼の商売は急速に繁盛し、予想以上の利益を上げることができた。
だが、彼はその成功に溺れ、自分が信じていた初期の感謝を忘れ始めた。
欲望が彼の心を蝕み、他者を思いやる気持ちが薄れていった。
また、彼の周りの人々は、次第に引き離され、誰も彼をもはや慕わなくなっていった。
それから数ヶ月後、健二のもとに一通の手紙が届いた。
それは、村の古い友人からのもので、「執念の寺に行った後、あなたは変わってしまった。かつてのあなたを取り戻してほしい」と書かれていた。
彼は手紙を見つめながら、胸の奥で不安が広がるのを感じた。
手紙に対する返事を書く気力ももうなく、彼は寝床に入ると恐ろしい夢に悩まされた。
夜ごとに、夢の中で彼は寺に引き戻されていた。
仏像の前に立ち、自分の願いが叶うたびに、背後から感じる不気味な視線に苦しんでいた。
暗闇が彼を包み込み、どこか遠い声がささやくのを聞いた。
「あなたの執念、忘れたのですか?」
ついには、健二は夢の中で自分自身を見失い、自己が崩れていくのを感じ始めた。
目覚めると、彼は寺の中にいた。
持っていた富はすべて霧のように消え去り、寺の中の静寂がその執念を告げるかのように響いた。
「あなたが願ったのは、成功のための執着でしたか?」声は、彼に問いかけてきた。
それは、かつての健二の声のようにも思えたが、どこか無惨に響いていた。
彼は泣きながら答えた。
「失われたものを取り戻したい。お願いです、どうか!」
その途端、寺全体が震え、暗闇が彼を包み込んだ。
彼の周りには、彼の欲望と向き合う影が現れ、一人、また一人とその執念を持つ者の姿が浮かび上がった。
彼はその影に圧倒され、自らの欲望がどれほど多くの人を傷つけてきたかを思い知らされた。
目を開けると、健二は自らの村に戻されていた。
しかし、彼の心には重い罪と屈辱が残っていた。
彼は再び執念の寺を訪れることはなかったが、夜が訪れるたびに、あの恐ろしい夢に怯える日々が続いた。
執念の寺の影は、彼自身の心の中で増殖し、決して消えることはなかった。
健二は、自らの欲望と向き合うことを決意し、村を出て、執念のない心で新たな人生を歩むことを誓った。
しかし、その誓いとともに、彼の心の奥深くには、何か不気味な印が残り続けていた。
それは、彼が再び執念の寺に近づくことがないよう、大きな存在感を放っていた。