彼の名前は智也。
大学を卒業したばかりの彼は、人生の次のステップを探すため、自分探しの旅に出ることを決めた。
目的地は、彼の祖母が住んでいたというルという小さな村だ。
村には、他の場所とは違った独自の風習や言い伝えが残されているという。
心のどこかで、その不思議な雰囲気を感じ取っていた。
智也は、村に着くとすぐに古びた和風の宿に泊まった。
宿には不思議な静けさが漂っており、宿主の老女はとても親切だった。
「ここには『書』にまつわる伝説があるのよ」と彼女は語り始めた。
その言葉に興味を抱き、智也は思わず耳を傾けた。
村には、特別な『書』が存在するという。
その『書』は、村の人々が心の中で抱えている「理」を克服する手助けをするものだそうだ。
しかし、夜になると、その『書』を開いた者には恐ろしい現象が訪れるとも言われていた。
智也の興味はさらに引き寄せられた。
夜、彼は好奇心に駆られて宿の裏に立つ古びた蔵に向かった。
宿主に聞いた話では、その蔵が『書』を保管している場所だ。
蔵の扉を開けると、埃をかぶった数冊の本が並んでいた。
興奮した智也は、一冊の本を手に取った。
その表紙には、すべてが非常に古い筆跡で書かれていた。
本を開くと、そこにはさまざまな人々の「理」が書かれていることに気付いた。
彼はページをめくりながら、様々な恐れや悩みが綴られた文章に目を通した。
どうやら、この『書』は過去にここで苦しんでいた人々の苦しみを記録したもののようだった。
不安がよみがえり、彼は何かに引き寄せられるように読んでいった。
反響のような声が、彼の頭の中に響いてきた。
「あなたも、過去の影に閉じ込められていますか？」智也は思わず声を上げた。
すると、蔵の中の空気が急に冷たくなり、周囲が暗くなり始めた。
彼は驚いて本を閉じ、逃げ出そうとしたが、足が動かなかった。
その瞬間、背後から冷たい手が肩に触れた。
振り返ると、そこに漠然とした影が立っていた。
影はゆっくりと彼に近づき、彼の耳元で囁いた。
「逃げることはできない。あなたの『理』を見せなさい。」
智也はパニックになり、一気に恐怖が押し寄せてきた。
彼自身が過去と向き合わなければならないことを理解し、冷静さを取り戻そうとした。
しかし、その影は生々しく、自分の内面に潜む恐れや失敗を映し出しているように感じた。
「私は…もう弱くない」と智也は自分に言い聞かせた。
影は彼の言葉に反応し、微笑んだ。
「その言葉こそが、あなたの一歩だ。」
智也は自分の過去を受け入れ、向き合う勇気を奮い起こした。
心の中に封じ込めていた恐れや、失ったものを思い出し、その一つ一つを手放していった。
その瞬間、影は徐々に消えていき、蔵の中が明るく照らされるようになった。
「あなたは、自分を見つめ直し、『書』の存在を超えられた」と影が言葉を残した。
智也はこの旅を通して、「理」を乗り越えたのだと感じた。
蔵の外に出ると、静かな村の夜が待っていた。
彼は新たな自分を認め、心の傷が癒されたことを実感した。
その後、智也は村を後にし、次の旅へと進むことにした。
この旅の経験は、彼に決して忘れられない教訓を与え、自分自身を大切にすることの大切さを教えてくれたのだった。
理を考え、過去を受け入れたことで、彼は新たな一歩を踏み出す準備が整ったのだ。
