育という村には、誰もが避ける場所があった。
それは、村の外れに位置する古びた小神社。
神社は淡い薄明かりの中でほとんど見えないほど、木々に囲まれ、霧のような影がしっとりと漂っていた。
村人たちはその神社にまつわる噂をささやき合い、特に春の満月の夜には、近づくことすらままならなかった。
「あなた、どうしてそんなところに行きたいの?」と友人の美咲が不安そうに尋ねた。
春の夜、太一は友人たちを誘い、神社の噂の真相を確かめるつもりだった。
太一は好奇心が旺盛で、それに反して友人たちは彼の提案に憂うつな気持ちを抱えていた。
「ただの噂だよ。見てみるだけさ。怖がっているのはお前たちだけだ。」太一の声には、自信が満ち溢れていた。
そうして、四人の若者たちは神社へ向かうことにした。
暗闇の中、静まり返った周囲に薄っすらと光る神社の灯りが見える。
太一は意気揚々と足を踏み入れたが、他の三人は微妙な表情を浮かべていた。
神社の中は静かで、鳥居を越えると、冷たい風が彼らの頬を撫でる。
「本当に何もないんじゃないか?」一人の友人、健太が言った。
だが、太一はその言葉を無視して進んだ。
彼らが神社の奥へと進むにつれて、あたりが静まり返り、周囲の木々が風の音もなく息を潜めているかのように感じられた。
その瞬間、彼はふと背後から微かに聞こえる声に気付いた。
「待って…」その声は薄暗闇の中からこだましていた。
「今の聞いた?」誰かが言った。
「気のせいだって!」太一は言い切ったが、心の奥底では不安が渦巻いていた。
彼はその声に魅了され、さらに奥へと進むことに決めた。
まるでその影に引き寄せられるかのように。
神社の中央に到着すると、そこには大きな石の祭壇があった。
その上には古びた木製の像が祀られていた。
その瞬間、また「待って…」という声が聞こえた。
それは確かに彼らの背後から響いていた。
太一は視線を後に向けたが、誰もいなかった。
そのとき、健太が「もう帰ろうよ、やっぱり怖い」と言った。
その言葉は少し震えていた。
だが、太一は歩みを止めなかった。
「もう少しだけ、音の出所を探ろう。」彼は興奮していた。
「影の望みが聞こえる。」再び声が響いた。
今度は明確に彼の耳へと届き、まるで彼を引き寄せるように響く。
太一はその声の正体を確かめたくて、祭壇の前に立つことにした。
「俺たち、影を感じる。」太一は独り言のように呟いた。
すると、目の前の像が奇妙に揺れ動いた。
神社の影は不気味にねじれ、彼の目の前で生きているかのように動き出した。
それはまるで、彼の願いを知っているかのようだった。
「頼む…お願いだ、私を見て…」太一の内心が声に出ると、影はさらに迫ってきた。
横から美咲が叫んだ。
「太一!やめて!」一瞬静寂が訪れた後、影が彼を包み込むように立ち上がり、暗闇の中で彼を囲い込んだ。
その瞬間、他の友人たちが逃げ出すと、太一だけが神社に残された。
彼は恐れおののきながらも、その声に応じていた。
「私に寄り添え…」影の声は低く、甘い響きを持っていた。
太一は何かに魅了され、恐怖を忘れて目を閉じた。
「君の望みが欲しい…」その瞬間に太一は気づいた。
彼の心の暗い部分、影が彼を求めている。
だが、時すでに遅し。
彼は神社の中で消えてしまった。
残された美咲たちは逃げ出し、神社の影は再び静まり返った。
その日以来、神社の噂は村中に広まった。
「そこに近づく者は影に囚われ、二度と戻れなくなる」と。
春の夜の空には、影のように彼らの声がこだまし続けている。