薄暗いホールに、灯りの点滅が続いていた。
高校の文化祭を終えた後、友人の健太と美咲は、ホールに残って片付けをしていた。
周囲には他の生徒たちの声や笑い声が絶えず響いていたが、二人は残骸の中でひっそりと作業を続けていた。
突然、停電が起きた。
真っ暗なホールの中で、慌ててスマートフォンのライトをつける健太。
「どうしたんだろう?」美咲は不安そうな顔をしている。
少しの間、周囲の暗闇を照らす。
確かにホールの外で賑やかな音が聞こえたのに、今は静まり返っていた。
その時、健太は後ろに何か視線を感じた。
「美咲、なんか後ろにいる気がする」言いながら、振り向く。
暗闇の中に、何かの影がうっすらと浮かび上がっていた。
人間のような形をしているが、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。
「気のせいだよ」と美咲は笑ったが、笑顔の裏には恐怖の影が浮かんでいた。
しかし、二人はその影から目を離せずにいた。
影は、自分の姿を探るかのように、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
その瞬間、ホールのスピーカーからけたたましい音が響いた。
それは何かの声だった。
耳をつんざくような音の中で、「お前たちの心の奥には、触れてはいけないものが眠っている」という言葉が繰り返される。
二人は思わず耳を塞いだが、その言葉の一部が心に引っかかって離れなかった。
美咲は恐怖から逃れようとするが、健太はその場に留まって影に目を向けた。
「己の内に何かがあるのか?」と問いかけた。
影はゆっくりと頷く。
その動きに動揺しつつも、健太は興味を抱いた。
己の中にある感情の影は、まさにこの影そのものだった。
「美咲、私たちの心の中にある『何か』を見つけよう」健太はその言葉を口にした。
美咲は反発するように、背を向けた。
「そんなことはどうでもいい!早くここから出ようよ!」しかし、ホールの暗闇は、逃げられないことを示すかのように再び静まり返っていった。
影は、二人の心の奥底に潜むものを見抜くように、じっと二人を見つめていた。
健太は自分の心の中に眠る恐れや劣等感を思い出し、美咲は周囲の期待に応えられなかった時の自己嫌悪を感じていた。
その影に寄り添うかのように、それぞれが抱える重荷が明らかになる。
「お前たちが恐れているのは、自分自身なのかもしれない」と影は静かに言った。
美咲は恐れから逃げ出そうとしていたが、影の言葉が心に刺さる。
健太は決心し、影に向き直った。
「私たちはこの感情と向き合わなければならない」と告げた。
二人は互いの目を見つめながら、自らの恐れを吐き出していった。
健太はその時、自分の心の中の闇を受け入れ、美咲もまた、自分の中にある弱さを見つめた。
影はその様子を静かに見守っている。
ようやく、ホールの灯りが戻り始めた。
少しずつ周囲が明るくなる中、影も徐々に薄れていく。
「己を受け入れよ。お前たちの恐れは、もはや恐れではなくなる」と最後の言葉を残した影は消えていった。
明るくなったホールの中で、二人は静かに相手を見つめ合った。
心の中の恐れを克服した彼らは、新たな一歩を踏み出そうとしていた。
恐れが自分たちを支配するのではなく、自らを受け入れることで新しい道が開かれることを知ったのだった。