「影の公園」

町の片隅に、常に薄暗い影を纏った古い公園があった。
そこは地元の人々から、決して近寄らないようにと噂されている場所だった。
その公園の隣には、新しく建てられたマンションがあり、引っ越してきたばかりの尚子は、周囲の噂を聞きながらも好奇心に駆られて、何度かその公園を訪れることになった。

最初の訪問の日、尚子は公園の中にある古びたブランコに目が留まった。
ブランコは動いていないのに、まるで誰かが座っているかのように揺れることがあった。
その不気味さに彼女は一瞬背筋が凍ったが、周囲には誰もいないことを確認し、気を取り直して公園を歩き続けた。

だが、次第に彼女の不安は大きくなっていった。
特に、誰もが通り過ぎるときに不気味に感じる「間」のようなものが、まるで彼女を見ているかのように感じられた。
尚子はある晩、一人で公園に行くことを決心した。
このとき、通りかかった老婦人が彼女に警告した。
「あの公園には、絶対に入らない方がいいよ。何かがいるから。」

その言葉を耳にした尚子は依然として好奇心に負けてしまい、夜の公園へ足を運んだ。
月明かりだけが頼りの中、ブランコのところまで来ると突然、風が吹き、彼女の髪が舞い上がった。
その瞬間、ふと耳にした囁きに、尚子はその場で立ち尽くす。
「逃げないで…」

彼女の心臓は高鳴り、恐れに駆られながらも、その声の正体を確かめようとブランコに近づく。
そのブランコの下に、何かが落ちていることに気がついた。
それは、かつてこの町に住んでいた女の子の持ち物だった。
女の子は公園で行方不明になり、以降姿を消していたという噂があった。
その持ち物を拾い上げたとき、突然周囲の空気が変わり、不気味な静寂が訪れた。

次の瞬間、尚子は胸の中に彼女の強い思念を感じた。
「ここから逃げられない…」その声は、どうやらこの町に思い残した者のものらしいと悟った。
彼女は悲しみに満ちた目で、彼女の姿が見えないまま、心の中で自分の存在をあまりにも厳しく感じ取っていた。

その後、尚子は急に後ろから冷たい手で肩を掴まれた。
振り向いたところには、どこか懐かしさを感じる少女の姿があった。
彼女は微笑み、そのまま指を差し示した。
しかし、尚子は動くことができなかった。
「逃げるがいい。私も一緒に行きたい。」

彼女は助けを求めようと叫ぼうとしたが、声が出ない。
心の中で不安と恐怖が渦巻く。
気がつくと、彼女の足元から黒い影が広がり、まるで彼女を引きずり込もうとしているかのようだった。
あまりにも冷たい水の中にいるような感覚に包まれ、身動きが取れない。
おぞましい落下感が尚子を襲ったその瞬間、彼女は気がついた。
これはただの噂ではなく、生き残った者の思いが詰まった場所なのだ。

彼女は思い出した。
あの公園に語り継がれる噂には、もしかすると何か真実があるのではないかと。
目の前の少女が求めるものが何か、考えようとした際、その幻影は静かに笑い、背中を押した。
尚子は恐怖と悲しみの中で、ずっと逃げることができなかった理由を思い知る。
そして、その場から一目散に逃げ出した。

彼女の背後で、冷たい囁きが再び響く。
「逃げるのか?でも、私はここにいつまでもいるから…」

その声を遠くに感じながら、尚子は必死に町へと駆け戻った。
彼女は、もう二度とあの公園に近づくことはなかった。
そして、なぜなら彼女の心の中には、まだ逃げられない何かが残っていることを知っていたからだ。

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