夜が深まり、静寂に包まれた町の一角には、ひときわ目立つ古びた公民館があった。
この公民館には、誰もいないはずの夜に、一人の青年が訪れていた。
彼の名前は智也。
普段はお調子者で明るい性格だが、今日はどこか憂いを帯びた表情であった。
何か新しいことに挑戦したいと思い、この場所を訪れたのだ。
智也は友人から聞いた「永遠の時を体験できる」と噂される公民館の地下室に興味を持った。
地元の人たちはその地下室を恐れ、決して足を踏み入れないようにしていた。
しかし、智也は好奇心からその話を信じることにした。
先入観にとらわれず、新しい体験を求めて。
彼が公民館の扉を開けると、ほの暗い廊下が彼を迎え入れた。
懐中電灯の光が廊下の壁を照らし、古いポスターや剥がれかけた壁紙が目に映る。
智也はドキドキしながらも、地下室へと続く階段を下りた。
その暗闇の中、彼は「なぜ人々がここを避けるのか」を実感していなかった。
地下室の扉を開けると、薄暗い部屋が目の前に広がっていた。
中には古びたテーブルと椅子、そして壁一面には不気味な絵が描かれていた。
それは、無数の人々が笑顔でこちらを見つめているように見えた。
智也はぞっとする気持ちを押し隠しながら、部屋の真ん中にあるテーブルに近づいた。
そして、表面に刻まれた「永遠に住まう者たち」の文字を見つけた。
思わず声に出して読んでしまった瞬間、部屋の空気が一変した。
智也の背後で、何かが動く音が聞こえた。
振り返ると、そこには彼の目には見えないはずの影が立っていた。
焦る智也は、後ずさりしようとしたが、影が彼を見つめているのを感じた。
まるで彼の動きに合わせて、影も動くようだった。
ダッシュで部屋を出ようとした智也だが、地下室の扉が閉まっていて開かない。
助けを求める声を出そうとしたが、口からは何も出てこなかった。
その瞬間、影が彼に向かって近づいてきた。
無数の笑顔の中から抑えられた声が聞こえた。
「新しい仲間が来た、永遠にここで過ごすのよ」
智也は恐怖のあまり、目の前の影に背を向け、テーブルに登って逃げようとした。
しかし、どれだけ叫んでも誰も助けてくれないことを瞬時に理解した。
気力を振り絞り、「帰ればいい」と思うが、影たちの笑顔が彼を包み込み、心の奥まで浸透してくる。
「ほらほら、私たちも一緒に遊ぼう」と囁く声が、永遠に響き渡る。
時間が経つにつれ、智也の心も押しつぶされていく。
気づけば、彼の体は軽くなり、周囲の世界が薄れていくように感じた。
影たちの笑顔はさらに濃く、彼が逃げてはいけない理由を教えてくれる。
「ここには何もないけれど、私たちとなら永遠に楽しいことが待っている」
そして、智也は心の底から「帰りたい」と叫んだ。
しかし、すでにその叫びは届かず、自分が別の世界の一員になっていく感覚が彼を包んだ。
恐れが消え、虚ろな笑顔が彼の中で芽生えていく。
「さあ、一緒に遊びましょう。新しい仲間として」
次の日、智也の姿は公民館から消え、彼を知る人々はただ「また一人、影になったのか」とつぶやくのだった。
公民館は今も静かに息づいており、夜が深まる中、影たちの笑い声が響き続ける。