狛は、友人から引き継いだ小さな商店を営んでいた。
店は繁華街からは離れた、どこか古びた雰囲気をまとう場所に位置していた。
狛は地元の人々との関わりを大切にし、親しみやすいおばあさんや同年代の友人たちと過ごすことが多かった。
しかし、彼の心の中には、何かが足りないと感じる不安が常にあった。
ある晩、狛はいつも通り店を閉める準備をしていた。
薄暗い店内に照明が反射し、影が長く伸びていた。
その時、突然、店の扉が開き、見知らぬ青年が入ってきた。
彼は肩までの長い髪を後ろで束ね、目元には少し陰があった。
狛は戸惑いながらも、「いらっしゃいませ」と声をかけた。
青年はそのまま無言で棚を眺めていたが、やがて視線を狛に向け、独特の雰囲気を漂わせながら言った。
「この店、運命的な場所だと思う?」
その言葉に狛は驚いた。
運命、縁、そして自分の心の空虚さを結びつけるような言葉だった。
しかし青年は、狛の反応には意に介さず、再び静かに店内を見渡していた。
狛は彼が何処から来たのか、何を求めているのか尋ねようとしたが、言葉が出てこなかった。
次の日、狛はいつも通り朝を迎え、店を開けた。
しかし、青年の存在が気になり、彼が甦ったような気分になった。
もしかしたら、彼は自分の人生の鍵を握っているのではないかと考えさせられた。
その日の晩、再び青年が現れた。
狛は心の中でワクワクしながら、彼に話しかけた。
「君、昨日も来たよね。何か探しているの?」
青年は微笑みながら答えた。
「ただ、自分の過去を探しているだけ。君の店には、私の運命が絡んでいる気がするんだ。」
こうして、狛と青年は毎晩のように会話を重ねるようになった。
青年はその度に狛に、自分の過去や見えない縁について話した。
その話には不思議と引き込まれ、狛は自身が長い間求めていた真の「縁」を見つけたように感じた。
だが、次第に狛は気づくことになる。
青年が毎晩来る度に、彼自身の運命を少しずつ変えているのではないか、ということに。
何か見えない力が働いている。
やがて狛は、自分が気づいていなかった「何か」に触れているのだと確信した。
ついにある晩、狛は決心をして、青年に尋ねた。
「君は本当に何を求めているの? 何があったの?」
青年は一瞬黙り込み、そして口を開いた。
「私は、自分に欠けていたものを見つけに来た。だけど、君と話すことで、真実が見えてきた。実は……私は、君自身の影なのだ。」
狛はその瞬間、全身が凍りついた。
青年は自分の心の一部分が具現化した存在であり、自らの過去と向き合うための導き手だったのだ。
彼の存在は、ずっと求めていた縁を示していたが、狛はそれに気づかず、ただ耳を傾けていただけであった。
真実が明らかになった時、狛の心の底から恐怖がこみ上げてきた。
彼は青年と向き合い、「帰らなければならない。私の運命を変えるために、真の自己と向き合わなければ」と言った。
青年は静かに頷き、扉へと向かって歩き……そのまま消えてしまった。
狛は驚愕し、ただそこに立ち尽くすしかなかった。
彼は一人になってしまったが、自らの心の欠片を手に入れるための旅が始まったのだ。
その日から、狛は再び自分自身と向き合い始めた。
そして、心にかかる影を解き放つための長い道のりを歩むこととなった。
彼は自分の人生の「縁」を見つけ、失われたものを取り戻すことによって恐怖を和らげることができるだろうと、希望を抱いたのだった。