ある晩、東京のとある公園に、佐藤恵美は一人で足を運んだ。
遅い時間になっても、公園のベンチに腰を下ろし、彼女はただ静かに星空を眺めていた。
心の中には、日々の疲れや悩みが渦巻いていたが、夜の静けさに包まれると少しだけ楽になった気がした。
ふと、周囲に感じる違和感に気づく。
耳を澄ますと、静寂の中にかすかな足音が聞こえてきた。
だが、辺りを見回しても誰もいなかった。
明かりの少ない公園だったが、街灯の下には影が落ちており、その影は確かに人のように見えた。
恵美は、少し不安になりながらも「気のせいだ」と自分に言い聞かせた。
しかし、その足音は次第に近づいてきた。
彼女は背筋がゾクゾクし、思わず立ち上がった。
周りを再び見渡すが、やはり誰もいない。
彼女の心臓は高鳴り、息が上がってくる。
すると突然、影が彼女の目の前に現れた。
その影は、人の形をしているが、まるで深い闇に包まれているようで、顔が見えなかった。
「だ、誰か?」と恵美は震える声を発した。
しかし、その影は無言のまま、じっと彼女を見つめているようだった。
何かが胸に迫る恐怖を感じ、恵美は後ずさりする。
影がゆっくりと近づくにつれ、その存在には何か凄まじい威圧感が漂っていた。
彼女は後退りながら、さらに逃げようとしたが、影はまるで彼女の動きを追うように、ゆっくりと続いてきた。
「お願い、やめて…」恵美は声を上げたが、彼女の言葉は公園の静けさの中に消えていった。
公園の出口が見えない。
彼女は焦り、早足で逃げ出したが、影はまるで彼女の動きに合わせて進んでくる。
心の内に潜む恐怖が膨らみ、恵美は不思議とその影に対して引き戻されるような感覚も感じる。
影の存在は彼女の心の中に住み着いているかのようだった。
「ねぇ、どうしてそんなに私のことを見つめるの?」思わず口に出した言葉に、自分でも驚く。
すると影が少しだけ後退し、まるで彼女の問いかけに応じるかのように、口を開いた。
「あなたは…私の大切な部分を忘れてしまった。」
一瞬、恵美は言葉の意味を理解できなかった。
だが、心の奥底で何かが引っかかる。
彼女は自分が何かを失っている感覚を抱えていた。
以前は夢中になっていた趣味や、友達との時間、何よりも自分自身を大切にすること。
それらがいつの間にか疎かにされてしまったことを思い出した。
「私はもっと、自分を大切にしなければならない…!」恵美はそう叫びながら、影に向かって手を差し出した。
すると、影はゆっくりと彼女の手に近づいてきた。
その瞬間、彼女は身体が軽くなるのを感じた。
影は彼女の中に入るように消えていく。
彼女は、自分の中に新たなエネルギーが湧き上がる感覚を味わった。
孤独や不安から解放され、これからの自分を大切にしようと心に誓った。
公園の出口が見え、恵美はその方向に歩きだした。
影は消えたが、彼女の心には新たな決意が芽生えていた。
これからは、自分の「大切な部分」を決して忘れない。
振り返ることなく、彼女は夜の静けさの中で自分を取り戻していった。