夜の街は静まり返り、月明かりが薄暗い道を照らす。
高橋和夫は、友人たちと共に町外れの神社へ訪れる計画を立てていた。
地元では有名な「誰」と呼ばれる現象の噂を聞き、好奇心をそそられていたからだ。
この現象は、特定の条件下で、自身の中に潜む「誰か」に出会うというもの。
しかし、その者は決して友好的ではないとも言われていた。
和夫は仲の良い友人、佐藤美香と加藤健太を誘い、この夜の冒険に挑むことにした。
彼らは夜遅くまで遊ぶのが常だったので、全く危険を感じていなかった。
しかし、和夫の心の中には、一抹の不安があった。
「誰」と対峙することが、本当に勇気ある行動なのか、一度考え直すべきだと思いつつも、彼はその考えを振り払った。
神社に着くと、周囲はひんやりとした空気に包まれ、月の光が神社の赤い鳥居を上品に照らしている。
三人は手を繋ぎ、心を一つにして神社の奥へ進んだ。
そこで、彼らは「誰」の出現を待つことにした。
暗闇の中、友人たちと笑いながらも、緊張した空気が流れている。
時間が経過するにつれて、和夫はふと目の前に異変が現れた。
月明かりの中、薄ぼんやりとした影が一瞬見えた気がした。
それは、彼自身に似た姿だった。
だが、その顔は異形な微笑みを浮かべてあり、和夫は驚きと恐怖に襲われた。
「和夫、どうしたの?」美香の声が耳に届く。
和夫は思わず振り返り、彼女に伝えた。
「あそこに、誰かがいる。」
健太もその方向を見つめた。
「それ、正気か?何も見えないぞ。」はっきりとした言葉ではなく、彼の口から出たのは疑念だった。
和夫の心の中で、恐れと興奮が渦巻く中、もう一度、その影を見る。
すると、今度は明らかに彼に向かって手を伸ばしていた。
「来い」とでも言うように、影は和夫へと近づいてくる。
和夫は後ずさりしながらも、その影に吸い寄せられるように進んでいく。
「和夫!」美香と健太の必死の叫びが響くが、彼の意識はその影に捕らわれていく。
「自分の中にある『誰』を見なくてはならない。」その瞬間、和夫の心には強い決意が生まれた。
影が和夫の目の前に迫り、彼がその手を取った瞬間、周囲は凍りつき、時が止まった。
彼は心の奥で確信した。
「私は私であり、誰にも支配されない。」その思念が影に通じたのか、影は一瞬消えた。
全てが元に戻ったかのように、月明かりが静かに照らす神社に戻ってきた。
和夫は恐怖から解放された。
しかし、背後から聞こえるささやきに気付いた。
「あなたが選んだのは、あなた自身の『誰』だ。」その言葉が心の奥に響き渡る。
今までの仲間たちとの絆が、彼を守ってくれたのだと強く感じた。
振り返ると、美香と健太は彼を心配そうに見つめていた。
「大丈夫?」美香が訊ねる。
和夫は頷き、三人はそのまま帰路につくことにした。
神社を後にする際、和夫はふと、あの影が彼に何を教えたのかを考えた。
それは、自分の「誰」を知って、向き合うこと。
これからも仲間たちと共にいられることの喜び。
「誰」に取り込まれず、真正面から立ち向かう勇気を得たのだった。