静かな間、薄暗い廊下が延びた先に古い民家があった。
その家の中には、かつて幸せそうに暮らしていた一家がいたが、今ではその面影も消え去り、ただの廃墟と化していた。
噂では、その家には「童」と呼ばれる無垢な魂が宿っているという。
その家に足を踏み入れた青年は、何かを感じていた。
彼は、幼少期の仲間たちと遊んでいた頃の思い出を胸に抱いていた。
しかし、その家に近づくにつれ、胸の奥に何か重いものがのしかかってくるように感じた。
「この家には何かがある…」
その時、彼は不意に耳元で囁く声を聞いた。
その声は、何かを求めるような、悲しみがこもった声だった。
好奇心を抱いたまま、青年は中に入ってみることにした。
薄暗い間を進む彼の前に、ぼんやりとした影が現れた。
その影は、幼い頃の自分自身の姿をしていた。
かつての仲間たちも、同じように影としてそこに立っていた。
彼は瞬間的に、彼らと一緒に遊んでいた日のことを思い出した。
楽しさと愛情が溢れ出す。
「ずっと一緒にいようよ。」
その言葉が頭に響いた瞬間、影は微笑を浮かべながら近づいてきた。
しかし、その笑顔はどこか不気味だ。
彼は急に、彼らの目が空虚であることに気づく。
「これが、情なのか…」
その瞬間、彼の心に何かが突き刺さった。
まるで重たい呪となって、彼の心を締め付ける。
「お前を仲間にしたい」という叫びが聞こえてきた。
家族や友人が奪われた恨みが、その声に乗せられて彼の耳に響いた。
彼は逃げようとしたが、影たちが彼を取り囲む。
彼が振り返り、必死に助けを求めた瞬間、影たちの手が彼を掴んだ。
彼は古い伝承を思い出す。
伝説によれば、そこに住む「童」は、情に飢えた魂だという。
「私たちと一緒になれば、この呪いから解放されるんだ。」
耳元でささやく声が彼を引き留める。
彼は「私は違う、私は生きている」と拒絶するが、影たちは抗えない力を持っていた。
彼の体は重たく、逃げることができない。
その時、彼はふと真実を思い出す。
彼が求めていたのは友情や愛情ではなく、ただの逃避だった。
彼は一瞬、自分が本当に求めていたものを思い知る。
孤独の中で、彼はそれを全うすることを恐れていたのだ。
「許してくれ…」
その言葉が、影たちの心に響いた。
彼の憎しみが、彼らの恨みを少しずつ解きほぐしていく。
呪いは解けるかのように、影たちは彼の前から消えていく。
青年はかつての仲間たちに感謝し、次第に心が軽くなっていく。
廃墟となった家は静まり返り、彼はようやく外に出ることができた。
風が髪を撫で、彼は新たな一歩を踏み出した。
情は呪いだとも言える。
しかし、その情があるからこそ、自分を取り戻すこともできるのだ。
彼の心は、静かな夜に先に進むための勇気を与えてくれた。
童たちの無垢な笑顔は、彼にとって大切な思い出となり、彼はその家を最後に振り返ることはなかった。