狛は、古びた下町に住む普通の青年だった。
彼の近所には、みんなが避けて通るような古い空き家があった。
その家は、村の人々の間で語り継がれる不気味な場所とされていた。
狛はテレビで見た心霊番組の影響を受け、それを検証することに決めた。
ある曇り空の日、狛はカメラを持ち、その空き家へ足を運んだ。
周囲は静まりかえり、彼の心臓は高鳴っていた。
家の外観はひどく荒れ、窓からは不気味な黒い影が見え隠れしているように思えた。
彼は思わずため息をつき、「本当にここに入るんだ」と呟いた。
中に入ると、ほこりだらけの廊下が広がっていた。
足音が響き、まるで誰かが彼の後ろにいるかのような錯覚を覚えた。
「これが噂の…」と、狛は心の中で声を震わせながら進んでいった。
彼はニヤリと笑い、「こんなもの、ただの迷信だろ」と自分を勇気づけた。
しかし、彼が部屋に入った瞬間、何かが彼の目を引いた。
それは壁の向こうから微かに漏れる光だった。
狛は興味を惹かれ、その光を追い求めた。
光の先にあるものを見たくてたまらなかった彼は、心の中の恐怖を振り払いながら、壁を突き破るように進んでいった。
やがて目の前の扉を開けると、広い部屋に辿り着いた。
部屋の真ん中には、大きな鏡が立てかけられていた。
しかしその鏡はただの鏡ではなかった。
狛が近づくと、自分の姿は映らず、代わりに暗い影が彼を見つめ返していた。
それはまるで彼をからかうように、ゆっくりと笑いかけているように見えた。
「なんだ、これは…?」狛は驚き、後退りした。
彼はその影が何を意味するのか、全く理解できなかった。
しかし、その瞬間、彼はその影が自分自身を恐ろしい悪に取り込む存在だということに気づいた。
彼の心に悪の感覚が浸透してきたのだ。
そして、まるでその影が彼を呼び寄せるかのように感じた。
逃げ出そうとしたとき、扉がガシャンと音を立てて閉まった。
狛はパニックに陥り、必死に扉を叩いた。
しかし、彼の叫び声は次第に埋もれていく。
彼の周囲は異様な静寂に包まれ、彼は恐ろしい状況に呑み込まれていった。
鏡の中の影が徐々にその姿を変え、彼に向けて手を伸ばしてくる。
「見ないでくれ…!」狛は叫びながらその場から離れようとしたが、体が言うことをきかない。
悪が彼を支配し、彼は鏡の中の世界に引き込まれていく。
そこでは、鏡の中の自分が恐ろしい顔を持ち、その存在を感じることができた。
彼は「もう戻れない」と思った瞬間、全てが暗闇に包まれ、意識が遠のいていった。
数日後、その空き家は荒れたまま放置されていた。
周囲の人々は変わらずその場所を避けていた。
狛の姿は見えず、彼が何を見たのか、誰も知る者はいなかった。
しかし、時折、鏡の中から覗く彼の目が、夜になると薄暗い部屋を見つめ返してくるのを感じる者がいた。
狛はその影と一つになり、悪の一部として永遠に囚われてしまったのだ。