私は、ある日の晩、友人たちとともに肝試しに出かけた。
舞台は、かつて人々が体験した恐怖の舞台、病院の廃墟だ。
そこは、かつて患者たちが多く集い、今ではその思い出が囁かれる場所となっていた。
私たちは、平日にもかかわらず、興奮と不安に包まれていた。
病院の扉を開けると、古びた待合室が目に飛び込んできた。
その空気は重く、微かな汗臭さを残していた。
部屋の隅に山積みになった古い医療器具や、ひび割れた鏡が異様な美しさを醸し出していた。
しかし、その背後には、かつてここでどれほどの苦難があったのかと考えると、胸が締め付けられた。
しばらくその場にとどまった後、私たちは廊下へと進んでいった。
そこでは、薄暗い空間の中、かすかに光る影がちらついていた。
「今の見た?」と友人が言った。
私も目を凝らすと、壁に写る自分たちの影が、普段とは違って不気味に歪んでいるのに気がついた。
まるで、何かが感染しているかのようだった。
一行はさらに奥へ進むことに決めた。
薄暗い廊下を歩くと、何かの音が聞こえてくる。
私たちは立ち止まり、その音の正体を確かめようと耳を澄ませた。
それは、かすかな囁き声であった。
「出て行け、出て行け…」その声がどんどん大きくなり、耳元でささやくかのように響き渡る。
友人たちの顔は青ざめ、誰も先へは進もうとしない。
しかし、私はそれから目を離すことができなかった。
中に何かがいる、と無意識に感じ取っていた。
恐怖は全身に広がり、心臓が早鐘を打つ。
声に引き寄せられるように、私はその先へと足を踏み出してしまった。
廊下の突き当たりへとたどり着くと、そこには元患者の部屋と思われるドアが立ち塞がっていた。
真新しい赤い塗料がはがれ、内部からかすかな光が漏れ出ていた。
好奇心が刺激され、私はノブを掴むと、ゆっくりとドアを開けた。
中はまるで夢の中のように、穏やかで神秘的な光に包まれていた。
しかしその中には、目を逸らしたくなるような民族の飾り物や人形が所狭しと並べられていた。
どれもこれも、まるで私を見ているかのような視線を向けている。
それと同時に、背後でドアが音を立てて閉まった。
その瞬間、闇が私を包み込んだ。
触れるもの全てが冷たく、異常な感覚が体を支配しはじめる。
体の中に何かが入り込み、私自身を蝕んでいく恐怖感。
私は立ち尽くし、自分の体が自分でないように感じていた。
そして、いつしか自分の声も思考も失い、ただの人形にされるようだった。
周囲が徐々に明るくなっていくにつれ、まるでその光が私の中に流れ込んでくるように感じた。
その光は一瞬の優しさを届けるが、すぐに体が暴力的に揺さぶられ、私を拒絶するかのように、何かが現れた。
目の前には、捨てられた医療器具のような何かがあり、凶器を持ったかのように尖っていた。
かすかに耳元で響く激しい嘲笑声。
私は叫ぶこともできず、ただ暴れ回る体に引きずられるままにその場で転げ回った。
しかし、光は追随し、逃げようとする私を惹き寄せては、さらに苦しませるようだった。
それは、暴力的に私の体を引き裂くかのように感じ、どうしようもない恐怖に襲われていた。
気づけば、私は床に倒れ込んでいた。
周囲の光は次第に暗くなり、耳元の囁き声が静かになっていく。
私は静かに目を閉じ、そのまま意識を失ってしまった。
最後に見たのは、壁の薄暗い隅に映る私自身の歪んだ影だけだった。
目が覚めると、私は病院の外に倒れていた。
友人たちが心配そうに私を囲む中、恐怖を思い出すことさえできなかった。
廃墟に戻ることは二度と無かったが、心の奥底にはその体験の影がいつまでも残り続けていた。