並んだ街の古びたアパート、その一室に住むのは浅野真司という若者だった。
彼は普段は普通のサラリーマンとして働いているが、彼には一つの特異な趣味があった。
それは「霊的現象」の研究であり、特に心霊スポットや呪いの話に強い興味を持っていた。
彼は友人たちから「変わり者」と言われることもあったが、その興味は止むことがなかった。
ある晩、真司はネットで見つけた恐怖の心霊話を元に、実際にその場所を訪れることにした。
その場所とは、彼が住むアパートのすぐ近くに位置する「影の神社」と呼ばれる場所だった。
この神社は、過去に多くの人々が行方不明になったという噂があり、特に夜になると不気味な気配が漂うとされていた。
真司は自らの好奇心を満たすため、影の神社へと向かった。
夜空に満ちた星々の下、彼は薄暗い小道を進んでいく。
神社に近づくにつれ、空気が次第に重く感じられ、鳥肌が立つ。
だが、恐れを感じつつも、彼はさらに神社の境内へと足を踏み入れた。
境内はひっそりとしていて、不気味な静けさが立ち込めていた。
朽ちた鳥居をくぐり、真司は心の中で「何かが起こる」と期待しながら、手元のノートを取り出し、調査を始めた。
しかし、その時、彼の背後から「わ」という小さな声が聞こえた。
その声は明らかに人のものではなく、どこか遠くから響いてくるようだった。
振り返るが、誰もいない。
真司は少しだけ怖気づきながらも、再び自分の研究に戻った。
神社の拝殿の前には、真新しい線香が置かれており、最近誰かが参拝した形跡があった。
彼は興奮し、さらにいろいろなことを書き留めようとしたが、その時再び「影が昇る」という不気味な声が耳に入った。
思わず再度振り返る真司。
しかし、これまでの静けさとは打って変わり、周囲が急に明るく見えることに気づく。
目の前に現れたのは、黒い影だった。
そこにいるのは、浮かび上がるように見えた人の形をした影で、彼をじっと見つめていた。
「お前の好奇心は、非常に危険なものだ」と影がつぶやく。
その声は低く、不気味に響く。
真司は息を呑んだ。
恐れて逃げようとしても、体が動かない。
「私が見ている真実を知る覚悟があるか?」影が問いかける。
真司は震えながらも頷くと、影はさらに間近に寄った。
その瞬間、真司は様々な情景が目の前に浮かんできた。
過去にこの場所で起こった数々の不幸な事件、それを知った者たちの悲痛な思いが、彼の魂を侵すようにヴィジョンとして広がった。
「お前は心の中に蓄えた知識を使い、真実を練り上げることができる。だが、同時にその真実はお前を飲み込むかもしれない」影は警告するように言った。
真司は気がつくと、自身の身の回りに影が幾重にも広がっていることを感じた。
恐れが心を覆い、彼は次第に追い詰められていく。
逃げ出したいと思うものの、自分の好奇心が影のように絡みつき、動けなくなっていた。
「影はお前を昇らせるが、その代償はお前自身だ」と影は告げる。
真司はついに真実が何であるかを理解した。
霊的現象を研究することで、彼はかつての不幸な魂たちと繋がり、それが彼を捉え、引き込もうとしていることに気がついた。
彼は逃げることを決意したが、その影の声は彼の心の奥底に響き続ける。
「お前はもう帰れない。影はお前をいつでも捕らえる準備ができている」と。
真司は必死にその場から逃げ出したが、彼の周りには常に影がまとわりついていた。
彼はアパートに戻り、自分を取り戻そうとするが、夜が深まるごとにその影が彼の日常に溶け込んできた。
光を失った生活の中で、彼はいつしか真実を求めていたはずの自分を忘れてしまい、影の一部となってしまったのだった。