サトシは幼い頃からずっと、祖母の家に過ごす夏休みを楽しみにしていた。
彼の祖母は小さな村に住んでおり、その村には古い伝説があった。
その伝説によれば、村の近くの森には、夜ごとに現れる「影」のような存在がいるという。
それは、一度でもその影を目撃した者に、取り返しのつかない運命をもたらすと言われていた。
今年の夏、サトシはファミリーキャンプをするため、祖母の家に向かった。
夜になると、祖母はいつものようにこたつに座り、彼に昔話を語ってくれた。
色々な話が出てきたが、その中でも特に彼の心に残ったのは、「影」についての話だった。
祖母は「絶対に森には近づかないでほしい。影を見たら、もう戻れなくなるかもしれない」と、真剣に警告した。
サトシは祖母の話が大げさだと思ったが、心の奥では何かがざわついていた。
夏休みのある夜、寝る前にふと外を見ると、月明かりに照らされた森が不気味に見えた。
その瞬間、彼は好奇心に駆られ、静かに外に出ることに決めた。
静寂な夜、サトシは森の入口までやってきた。
薄暗い霧が立ち込め、森の奥から不思議なささやきが聞こえてくるようだった。
彼は恐怖心を感じながらも、さらに奥へ進んでいく。
すると、突然、背後から「くすくす」と笑う声が聞こえた。
その瞬間、背筋に冷たいものが走る。
振り返ると、誰もいなかった。
しかし、その感覚が彼を森の奥へ導いてしまう。
サトシはますます不安になりながらも、声の主を探して進んだ。
そして、だんだんと視界が暗く、霧が濃くなっていく。
彼の心臓はドキドキし、足取りも重くなった。
やがて、深い森林の中、彼は異様な光景を目にすることになる。
広場の中心に、古びた木の台座がぽつんと立っていた。
その周囲には無数の影が見え、どこかへ続く道のように伸びている。
サトシの恐怖は頂点に達し、彼はその場を離れようとした。
しかし、背後から「来てほしい…」と再びあの笑い声が響く。
一瞬、サトシは考え込んだ。
「影って、何なのだろう…」。
その好奇心は彼をさらに引き寄せ、彼は恐る恐る足を踏み出した。
すると、影たちは彼の周りを囲むように動き、まるで彼を歓迎するかのようだった。
サトシは興奮し、同時に少しばかりの恐怖を感じながらも、影の輪の中心へと導かれた。
その瞬間、サトシは足元から大きな力を感じた。
「影」が彼の足を絡め取り、どんどんと彼を引き込んでいく。
彼は必死に抵抗し、叫ぶも声はどこかへ消えてしまった。
影の中から、次第に人の顔が浮かび上がってきた。
彼の目の前には、過去にこの村に住んでいたと思われる、無数の人たちの顔があった。
「らせんの中へようこそ…」。
その言葉に彼は愕然とした。
森の影が、村人たちの未練であることが理解できた。
彼は絶望的な状況に陥り、抵抗するが、影は彼を支配しようとした。
彼は過去の記憶に引き込まれ、恐ろしい運命が待ち受けていることを悟った。
村に帰ることができない…その言葉が心の中で響く。
サトシはかつて自分が祖母から聞いた「影」の話を思い出し、焦りと後悔に苛まれた。
彼は大切な家族や友達のことを考えながら、次第に影に飲み込まれていった。
その夜、村の人々はいつも通りに眠りについた。
しかし、サトシに会うことは二度とないだろう。
そして、森の奥では新たな影が、彼の姿を借りて静かに動き始めていた。
影は人々の記憶を食い尽くし、また次の者を彼のように引き込もうとしていた。