静まり返った夜、古びた宮の境内には、月明かりが薄く差し込んでいた。
その宮はかつて、多くの人々に敬われていたが、今では誰も訪れる者はなく、周囲は自然に飲み込まれているようだった。
森の奥で不気味な影をなぞるように佇むその場所には、長い間忘れ去られた秘密が隠されている。
大学生の健二は、友人たちと肝試しをするためにその宮を訪れた。
普段は明るく元気な性格の健二だが、薄暗い空気に包まれると、彼の心にも一抹の不安がよぎった。
「ここ、本当に大丈夫かな?」と彼は仲間に尋ねたが、その不安を笑い飛ばされてしまった。
友人たちは楽しそうに笑い、宮の中へと進んでいく。
宮の中は静寂に満ちていた。
古びた神殿の奥には、今は失われた祭りの名残が感じられる。
神々に供えられたと思われる供物が、朽ちかけている。
その場の異様な雰囲気に、健二の背筋が凍りつく。
友人たちは興奮し、写真を撮ったり、冗談を言い合った。
しかし、健二は周囲のひんやりとした空気に戸惑っていた。
その時、彼は何かの気配を感じた。
影が彼の視界にちらついた。
振り返るが、誰もいない。
しかし、心の底に潜む恐怖は彼を捉えた。
友人たちは一層盛り上がっていたが、健二は一人、再び神殿の奥へと進んでみる決心をした。
奥へ進むにつれて、健二は不思議な感覚に包まれ始めた。
それは、まるで誰かに見られているような、生々しい気配だった。
そして、ふと彼の視界に入り込んだのは、一つの影だった。
それは女の子の姿をしているように見えたが、何かが周囲に漂っている。
彼女の目に宿った悲しみと無垢さは、健二の心を掴んだ。
「助けて…」その声が、健二の耳に届いた。
驚きと恐怖で全身が硬直する。
一体何だこの現象は?彼はその影に惹かれ、近づいてみる。
影の中には、古い宮の神像が隠れているようだ。
生気を失ったその目は、まるで過去に誰かを見つめているように感じられた。
健二は、少しずつ影の中に引き込まれていく感覚を覚えた。
彼の手が伸び、影に触れた瞬間、彼は奇妙なビジョンを目の当たりにした。
そこには、長い間人々に崇められてきた女神がいた。
彼女の表情は優しいが、どこか寂しげだった。
彼女の周囲には、涼しげな風が舞い、命の息吹が感じられる。
「私のために、あなたは生きているのですか?」女神は、彼に問いかけた。
その瞬間、健二の心に深い疑問が浮かんだ。
彼はこれまでの人生で何を求め、何を忘れていたのか。
過去の記憶、家族の愛、友人との約束が彼の心を撫で、彼を突き動かした。
「あの時、私たちは結びついていました。そして、あなたは私の影に彷徨っているのです。」女神は微笑んで言ったが、その言葉は彼に重くのしかかった。
彼はその瞬間、過去の出来事や未練を抱えている自分に気づく。
だが、影は彼を解放しようとしているのだと感じた。
「未来は、あなたの手の中にある。」女神は強く、そして優しく告げる。
影が徐々に彼の周りから消えていくと、彼はほんの少し心が軽くなり、透明な感覚を味わった。
健二は彼女の声を思い出し、自らの生への希望を取り戻そうと決意した。
その後、神社を後にした健二は、胸に新たな光を抱えていた。
忘れがたき思い出と共に、これからの人生を大切にしていく覚悟を決めた。
影は過去の象徴として存在し続けるが、彼はもう二度と逃げないと誓った。
宮の神々が見守る中、前へ進む瞬間、その心には新しい生が芽生えるのを感じた。