「影に宿る思い出」

大学生の真一は、友人たちと共に夏休みのレジャーとして、山キャンプを計画した。
彼らは山の奥深く、手つかずの自然が残る場所にテントを張り、友達と親密な時間を過ごすつもりだった。
しかし、真一には山に対する特別な思いがあった。
かつて、父親から語られた「り」の存在。
美しい山々が生み出す不思議な力、心を癒すものがある一方で、呪われた場所でもあると聞かされていた。

初日の夜、友人たちと焚き火を囲んでいると、真一は過去の話を持ち出した。
「父親が言っていたんだ。この山には『り』というものがあるって。」友人たちは興味津々。
特に、賢司がその話に乗ってきた。
「それって、何か特別な現象のこと?無のような?」真一は頷き、「そう、何もないけど、何かがある。うまく言えないんだけど、この山は不気味なんだ。」

みんなが笑い声を挙げる中、夕暮れが山を包み込んでいく。
周囲は次第に暗くなり、静寂が訪れる。
その時、健太が「ちょっと散歩に行こうぜ」と提案した。
真一は不安を抱えながらも、友人たちと共に山の奥へと進んだ。
心のどこかで、「無」になってしまうかもしれないという恐怖が頭をよぎったが、彼はその気持ちを胸にしまい込んだ。

数十分後、彼らは見知らぬ場所に辿り着いた。
そこは原生林が生い茂る不気味な空間で、木々の間からは微かに光が漏れていた。
その瞬間、真一の目の前に現れた小さな影。
それは小さな女の子だった。
彼女の目は真一を真っ直ぐに見つめ、何かを訴えているようだった。
しかし、その姿はどこか薄暗く、影に包まれているように見えた。

「おい、真一、大丈夫か?」賢司が不安げに声をかける。
真一は無意識に女の子の方へ足を進めた。
「どうしたの?困っているの?」彼の問いかけに、女の子は微かに首を振り、黙って立ち尽くしていた。

「逃げろ!」突然、健太が叫んだ。
振り返ると、森の奥から不気味な声が響いてきた。
無数の影が真一たちを包み込んでいく。
それはまるで、彼らの存在を忘れさせようとするような感覚だった。
彼は急いで友人たちに手を伸ばし、逃げるよう促した。

彼らは必死に山を下りていくが、影は追いかけてくる。
「過去を忘れてはいけない」と耳元でささやかれた。
真一は恐怖に怯えながらも、自らの叫び声を無視して走り続けた。
結局、彼らはなんとかテントにたどり着き、脱力感と共に倒れこむ。

翌朝、テントの中で目を覚ました真一は、昨夜の出来事を友人たちに語ろうとした。
しかし、彼はみんなの表情が曇っていることに気が付いた。
賢司が言った。
「俺たち、昨夜、山を下りたと思っていたけど、実際には迷ってたんじゃないか?」他の友人たちも不安な表情を浮かべていた。

「真一、あの女の子……覚えてる?」健太が言いかけたとき、真一は彼らの視線が避けられていることに気づいた。
そして、彼の心にあの女の子が残した言葉が蘇った。
「過去を忘れてはいけない」その意味を理解するには、あまりにも時間が経ちすぎていた。

彼らは山を離れる準備を始めたが、真一は心の中で何かが引っかかっていた。
それは、「り」とは何だったのか、そしてその存在が彼にとって何を意味するのかという疑問だった。
この山には、不思議と共に恐怖が潜んでいる。
彼はその思いを胸に抱え、永遠に消え去ることのない恐怖を忘れないでいるだろう。

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