彼の名は験。
彼は人々の運命を左右する力を持つ、いわゆる「運命の修正者」とした存在だった。
しかし、彼の能力には代償があり、それを知る者は少なかった。
彼が人々の運命を変えるたびに、必ず無垢な魂がその代償として奪われていたのだ。
ある晩、験はひとりの少女と出会う。
彼女の名は千夜。
その存在は彼にとって特別だった。
美しい黒髪、透き通った肌、そしてその瞳は、まるで夜空の星が映り込んでいるようだった。
千夜は彼に助けを求め、家族を救ってほしいと懇願した。
彼女の家族は、日ごとに悪化する不運に苦しんでいた。
験は迷った。
彼女の無邪気な笑顔を見つめると、心のどこかで彼女を救いたいという気持ちが湧き上がった。
しかしその先には、彼の持つ運命の力を使った場合、奪われる魂が待っている。
果たして、彼は千夜を救うことができるのか。
「約束する。ただし、代償はあなたの魂だ。」
千夜は悩んだが、やがて彼女の願いは揺るがなかった。
自分の命よりも家族を救うことが大切だと心に決める。
験はその決意を受け入れ、運命を変更する呪文を唱えた。
電が走るような強い光が二人を包み込んだ。
そして、彼女の家族に訪れていた不幸は一瞬で消え去った。
その瞬間、深い静寂が辺りを包み込んだ。
験は千夜を見つめ、その顔に浮かぶ安堵の表情を見た。
しかし、彼女の背後には黒い影が絡みつくように現れた。
その影は、奪われた魂の怒りが具現化したものであり、千夜の運命を脅かすものであった。
「あなたは、なぜ私の魂を奪ったの?」
千夜は悲しみと苦しみを抱きながら、験に問いかけた。
彼は彼女の問いに答えられなかった。
彼の心は、彼女を救うはずだったという思いと、彼女の魂を奪ったという現実の間で揺れ動いた。
電光が再び鳴り響き、千夜の身体を包んだ。
それは彼女自身の魂が、自由を求める叫びのようだった。
影はますます膨れ上がり、験に迫ってくる。
彼は彼女を助けようと必死になったが、その力はもはや及ばなかった。
「ごめんなさい、千夜……」
彼の謝罪は消えゆく命のように、虚しく響くだけだった。
彼女の存在は、次第に色を失っていく。
「私の命で、私の魂で、家族を救ってください……」
千夜が泣きながらそう言った瞬間、全てが静まり返った。
験は、本当に何もかもが奪われてしまったような気分になった。
彼はこれが運命の修正者としての宿命だと理解していたが、心の底からその考えを受け入れることができなかった。
影に飲み込まれる千夜の姿を目の当たりにし、験は運命とは何であるのか、魂とは何であるのかを思い知らされた。
彼自身もまた、千夜の代償によって深い闇に包まれていく。
彼女を救えなかったという重圧が、彼をますます苦しめていった。
その夜、彼の心には永遠に消えない影が刻まれることとなった。