落ち葉舞う静かな秋の夜、田舎町の古びた小道を歩く健太は、何か異様な気配を感じていた。
町の外れには、長い間放置されていた家があり、そこは人々の間で「影の家」と呼ばれていた。
噂では、過去に家の主が悪に囚われ、闇の深い記憶を残していると言う。
彼は友人たちと肝試しをするため、その家を訪れることにした。
同級生の美咲や涼と一緒に、健太は家の前に立った。
皆一緒に足を踏み入れることを決めたものの、その不気味な外観にためらいが生じる。
家の中は暗く、重苦しい空気が漂っていたが、彼らは恐怖心を押し殺し、探索を始めた。
薄暗い廊下を進むと、古い家具や壊れた鏡、ほこりを被った壁が目に入る。
途中、健太は何かが引っかかるような感覚を覚えた。
「あれを見て」と、美咲が指差した方向には、古い写真立てがあり、写真の中には見知らぬ家族が映っていた。
彼らは幸せそうに微笑んでいるが、その目はどこか生気が失われているように見えた。
涼がその写真に近寄った瞬間、室内の温度が急に下がり、冷たい風が吹いた。
「今のはなんだ？」涼は恐る恐る振り返り、いつの間にか背後に立っていた影のような存在に気が付いた。
それは、かすかな影で、薄暗い光の中で揺らめいていた。
影は「あなたたち、遅い」と囁くように言った。
恐怖のあまり、皆一斉に後ろに下がった。
しかし、影の影響はすでに始まっていた。
部屋中に広がる不穏な空気。
健太は奇妙な記憶が脳裏をよぎるのを感じた。
かつて、彼がこの家について聞いた噂、家族が行方不明になった事件、そして「悪」を宿した何かが住み着いていること。
彼の頭の中は、より一層混乱し始めた。
健太の心には、「失ったものを取り戻す」という謎の願望が芽生え、それが彼の行動を引きずった。
「出て行こう、これ以上はやめよう」と美咲が叫んだが、健太はその場から動くことができなかった。
そしてその時、悪しき影が彼に取り憑いたのか、健太はまるで意識を失いそうになる。
「私はここにいる、私を思い出してほしい」とささやく声が耳元に響く。
彼はその声に導かれ、暗い廊下を進むことを選んだ。
進むにつれて、壁にかけられた古い絵画や写真が彼を見つめ返す。
その中には、先ほどの家族の姿もあったが、今度は表情が怒りに満ちている。
健太は真実を知ってしまったかのように思った。
彼らはこの家に閉じ込められ、悪に飲まれてしまったのだ。
ようやく一室に辿り着くと、そこには古ぼけた日記があった。
ページをめくるにつれ、家族がどのようにして家の中で苦しみ続けたのか、また、彼らの運命がどう変わってしまったのかが記されていた。
しかし、日記の最後には、「影を呼べ」との不気味な言葉が綴られていた。
その時、健太は感じた。
自らがこの家に引き寄せられた理由、そして「影」が何を欲しているのかを。
しかし、引き返すことができないほど、闇に魅了されてしまった彼は、出口を見失った。
美咲と涼の声が遠くで響くが、彼の心の奥底にはすでに影が宿り、自分が失ってはいけない記憶に囚われていた。
やがて、彼の姿はその家の中に消え、周囲には静寂が戻った。
風が葉を揺らす音が一瞬の静けさを破り、その瞬間、再び冬の闇が深く静まり込んでしまった。
彼の仲間は、影の存在を忘れることを選び、やがてその家のことを語ることも少なくなっていく。
健太が失ったものは、闇に飲み込まれたまま、誰も知ることはなかった。
