深い山々に囲まれた原に、ひっそりとした村があった。
この村には、数世代にわたって語り継がれてきた伝説があった。
それは、「者」と呼ばれる存在によるもので、村の人々からは恐れられていた。
者とは、過去の出来事や恨みを背負った者たちの霊であり、特に何か大きな悲劇があった場所に現れると言われていた。
この村には、親友の達也と健太という二人の若者がいた。
彼らはどちらもこの村で生まれ育ち、何も知らずに日々を過ごしていた。
しかし、ある日、達也が周りの人々から聞いた者の伝説に興味を持ち、彼は健太にその真相を確かめることに決めた。
「行こうよ、健太。あの者が現れるって言う場所に行ってみようよ。」と達也が提案した。
健太は不安を抱きつつも、達也の好奇心に引き込まれてしまった。
二人は、村の外れにある、誰もが近づかない古い原へと足を運んだ。
日が落ちかける頃、原はひんやりとした空気に包まれ、周囲は深い静寂に支配されていた。
それでも、達也は「何も起こらないさ」と言いながら、一歩一歩、原の奥へ進んでいった。
突然、風が吹き抜け、原の中に異様な声が響いた。
「お前たち、何を探しているのか?」声はまるで、遠くから聞こえてくるかのように、ぼんやりと耳に届いた。
二人は立ち止まり、顔を見合わせた。
健太の心臓は早鐘のように鳴り、背筋には冷たい汗が流れる。
「気のせいだ、気のせいだよ」と健太は自分に言い聞かせたが、達也は続けて声のする方へ歩を進めた。
「大丈夫だって、行こうよ。真実を知りたいんだ。」
彼らは原の中央に辿り着いたとき、突然、辺りの空気が変わった。
日の光が薄れ、暗闇が彼らを包み込んでいく。
その瞬間、彼らは目の前に数人の人影が現れるのを見た。
それは、古びた服を着た者たちで、彼らの顔は憎しみに満ちていた。
「我々は忘れ去られた者。過去の悲劇を背負い、ここに縛られている。」声はささやくように響き、あたりは重苦しい静けさに包まれた。
達也は後退り、健太も恐れを感じたが、達也はその場に立ち尽くした。
彼は者たちの目に見つめられ、その恐ろしさに逆らうことができなかった。
「我々はお前たちのような者を求めている。お前たちが我々の真実を知ることで、私たちの恨みを晴らしてほしい」と、者の一人が言った。
健太は心の中で、逃げたいという思いと、達也を助けたいという思いが葛藤していた。
達也は、その者たちの前で声を絞り出すように言った。
「私たちが何をすれば、あなたたちの恨みは晴れるのですか?」
者たちは一致して、古い言い伝えを語り始めた。
生前に抱えていた怒りや悲しみ、それが彼らを今でもこの原に留めていること。
その痛みを理解し、聞くことが彼らの救いになるのだと。
達也はその言葉に心を痛めた。
彼の目には涙が浮かび、ついに健太も彼の手を取って、者たちに向かって言った。
「私たちがあなたたちの声を聞き、あなたたちの思いを伝えます。その思いを訴えて、多くの人々に知ってもらいますから。」
その時、者たちの表情がわずかに和らいだ。
彼らは静かに頷き、原の空気が少しだけ軽くなったように感じた。
そして、者たちはゆっくりと姿を消していった。
原は再び静まり返り、達也と健太は放心状態でその場に立ち尽くしていた。
彼らは逃げることなく、これからの道を共に歩むことを誓った。
者の声を聞いたことで、彼らは新たな使命を与えられたのだ。
それから数日後、村には者の伝説を伝える祭りが開かれた。
達也と健太はその中心に立ち、村の人々に過去を語り、忘れ去られた者たちの存在とその思いを伝えた。
村の人々は彼らの言葉に耳を傾け、新たな理解を深めていった。
者たちの恨みは少しずつ薄れ、原には新たな風が吹き始めた。