彼女の名は美咲。
東京の郊外にある静かな図書館で、彼女は毎日のように本を読み、ひたむきに学び続けていた。
その図書館は、古い歴史を持ち、まるで時間が止まったかのような不思議な雰囲気を漂わせていた。
美咲はその場所が好きだった。
そこは彼女にとって、心の安らぎをもたらす特別な空間だったからだ。
ある晩、美咲はいつも通り図書館に足を運んだ。
外は真っ暗で、静寂に包まれている。
彼女は一冊の古びた本に目が留まった。
それは「影の愛」と題された怪しい本だった。
ページをめくると、そこに語られるのは、長い間失われた「影人」の物語だった。
影人は、生きる者に愛を与えるが、それと同時に彼らの命をも吸い取る存在だと書かれていた。
興味を持った美咲は、思わずその本を手に取った。
その瞬間、彼女の背後に何かが浮かび上がったような気がした。
「気のせいだ」と自分に言い聞かせ、本を広げてその続きを読み進める。
物語に魅了された美咲は、次第に時間を忘れ、夢中になっていった。
そして、夜も深くなり、一人きりの図書館に目が慣れてきた頃、突然、背後で微かな囁き声が聞こえた。
「美咲……あなたに会いたかった……」その声は、まるで真っ暗な影から漏れ出るように柔らかく、しかしどこか不気味な響きがあった。
振り向くと、そこには一つの影が立っていた。
視線が合った瞬間、美咲は心臓がドキッとするのを感じた。
その影は、彼女を見つめていた。
「私の名前は透。影の者だよ。」影は静かに言った。
美咲は混乱しつつも、どこか魅了されている自分を感じていた。
透は続けた。
「私は、あなたがこの本を手に取るのを待っていた。あなたには特別な力がある。それは、愛によって私を解放すること。」美咲はその言葉に戸惑った。
愛?影を解放するための愛?彼女の頭にはさまざまな疑問が渦巻いた。
「あなたを助けるために、私はここにいる。私を解放することで、あなたの大切な人を守ることができる。」透は美咲に近づき、まるで彼女を包み込むように影が伸びてきた。
その瞬間、美咲は心の奥底に潜む不安を感じた。
だが同時に、美咲は自身の心の中にある愛向ける気持ちを再認識した。
彼女には、愛しい人がいた。
彼の名は夏樹。
夏樹は彼女の支えであり、希望そのものだった。
美咲は透の言葉に心を動かされ、自分の選択を迫られた。
「あなたの愛があれば、私は完全に復活することができる。」と透。
「だが、それにはあなたの愛を少しだけ私に分けてほしい。」美咲は悩んだ。
愛を分けるとは、一体どういうことだろうか?彼女は夏樹との未来を思い描き、瞼を閉じた。
「もし、私の大切な人を守るためなら…」美咲の心は強く決まった。
「でも、それは本当に正しいのか、自分の心に問い続けた。」
透は優しく微笑みかけ、「信じて。私を解放してくれれば、影を永遠に解き放つことができる。彼を守れるのはあなたしかいない」と言った。
美咲は一瞬の迷いの後、決意した。
「私の愛をあげる。」美咲はその瞬間、透に心を開いた。
すると影は美咲の体に絡まり、まるで愛が吸い取られるような感覚が走った。
美咲はその瞬間、か細い声で夏樹の名前を呼ぶ。
しかし、目の前で透の姿はどんどん濃くなり、彼女から分け与えた愛が影を増していく。
その時、図書館の静寂が破られる。
美咲の視界から鮮やかな光が消え、影さえも存在しなくなった。
彼女は何が起きたのか理解できないまま、ただその場に立ち尽くした。
数日後、美咲は元気を取り戻し、笑顔を見せるようになった。
しかし、彼女の周囲には何かが変わったような、冷たい空気が漂っていた。
影が美咲を見守りながら、どこかで彼女の選択に満足し、次なる時を待っているように感じた。
いつまでも続く愛の影。
彼女の心にはいつも透の影が寄り添っていた。