「影に囚われた島」

離れ小島の静寂は、不気味なまでに深かった。
その島は昔から「忘れられた場所」と呼ばれ、どこか不気味な伝説が語り継がれていた。
新は、好奇心からこの島に足を踏み入れることにした。
彼は若い頃からの友人である恵と共に、探検のための小道具を持ち、島の中心部を目指していた。

二人は島に着くと、すぐにその異様な雰囲気に気付いた。
森の奥深くに進むにつれ、薄曇りの空が不気味に見え、時折風が吹くたびに木々がざわめいた。
新は「怖がってるのか?」と恵に訊ねたが、彼女は笑顔を見せた。
「大丈夫、ただの島だよ。何か面白いことがあるかもしれないじゃない」と返した。

やがて山道を登りきると、視界が開け、古びた祠が見えた。
その祠は、太い木の根に覆われており、まるで長い間忘れ去られたようだった。
「ここ、ちょっと何かありそうだね」と新は言い、二人は祠の前に立った。
しかし、彼の言葉が引き金となってしまったのか、その瞬間、急に空が暗くなり、冷たい風が吹き抜けた。

「なんだか、ここはおかしいね」と恵が呟いた。
新はその瞬間、心の底から、何かにつけられているような不安を感じた。
「戻ろうか」と言いかけた瞬間、恵の表情が変わった。
彼女は無表情で、祠の中を見つめていた。
新が彼女に声をかけようとしたが、彼女はまるで夢中になったかのように動かずにいた。

その時、周囲から不気味な囁き声が聞こえてきた。
「来るべき時が、来た」と、まるで何者かが新の耳元で囁いているかのようだった。
新は恐怖に駆られ、恵を引っ張り「行こう」と叫んだ。
しかし、彼女の目は虚ろで、何かに取り憑かれたようだった。
「新、この場所が…私たちを見ている」と呟く恵の声は冷たく響いた。

新は、言葉を失った。
そんな恵の背後に、ぼやけた影が立っているのを見た。
それは、女の顔を持つような影で、ゆらゆらと揺れていた。
新は後ずさり、再び声をかけようとしたが、その影が彼に向かって手を差し伸べてきた。
同時に、恵もその影に引き寄せられるかのように一歩踏み出した。

「恵、やめろ!」新は叫び、彼女の腕を掴んで引き戻そうとした。
しかし、強い力が彼女を引き留め、まるで周囲の空気が変わったような感覚に襲われた。
新は愕然としながら、何とか恵を引き剥がそうと必死になった。
影の存在は、彼女の周囲に渦巻き、もはや二人の世界は変わり果てていた。

「逃げろ、私を置いていけ!」恵が叫び、影に飲み込まれそうになっていた。
新は心の底から叫びたかった。
彼女を助けたいのに、足がすくみ、逃げ出すことしか考えられなかった。
その瞬間、恵は不気味な声で「新、私を忘れないで」と囁き、静かに消えていった。

新は、恐怖に駆られ、全力で島を駆け抜けた。
森の中、暗闇が彼を襲い、影が追い立ててくるように感じた。
島を脱出し、ようやく港にたどり着いた時、彼は振り返ることができなかった。
恵の声、彼女があの場所に残したもの、そしてその影に取り憑かれてしまった友人の姿が、彼の最後の記憶となった。

数日後、彼の心に浮かんでくるのはいつも恵の笑顔だった。
しかし、それと同時に彼女の最後の言葉が、耳元で囁かれるようになった。
「私を忘れないで」新はその囁きを振り払おうとしたが、結局その言葉は彼の魂の中に根付いてしまった。
忘れられない、それが彼の運命になってしまったのだ。

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