深い森の奥、誰も訪れない古い神社があった。
そこには「因」と俗に言われる、過去の人々の思いが渦巻く場所と言われていた。
おそらく今でも、その思いは何かに引き寄せられ、今を生きる者に影響を与えているのだろう。
人々はその神社を避け、夜になると近寄らなかったが、一人の若い女、名を真希という者だけが、その神社に興味を持ってしまった。
真希は大学の心理学を専攻していた。
彼女は「因」について研究し、克服する手段を見つけようと考えていた。
友人たちは、真希が神社に行くのを止めたが、彼女は自分の好奇心に逆らえず、その神社を訪れることを決意した。
ある夜、満月が静かに光を放つ中、真希は神社へと足を運んだ。
手に持った懐中電灯がやや心細く感じたが、不安を押し殺して境内へと進む。
木々のざわめき、そして静まり返った空気が入り混じり、まるで彼女を歓迎していないかのようだった。
神社の社殿に到着した真希は、低い姿勢で祈りを捧げた。
「過去の因を知りたい。私の心の傷を癒したい」と願った。
すると、冷たい風が吹き始め、何かが始まる予感を感じた。
彼女はその場に立ち尽くし、次第に何か奇妙な現象が起こり始めた。
その瞬間、真希の周りに薄暗い影が現れ、彼女の心に潜む痛みを映し出すかのように踊り出した。
涙を流す彼女は思わず目を閉じた。
その影たちは恐ろしい悲しみの形を持ち、真希の過去を知る者であるかのように、彼女の背後で囁く。
「因を忘れるな。逃げないで向き合え」と。
真希は恐怖で震えたが、心の底からその影を受け入れることに決めた。
彼女は過去の出来事、心の傷を思い出し始める。
幼少期、友達ができず孤独に悩んでいたこと、家族に愛されていないのではないかと感じたこと、そうした因が彼女の心に重く圧し掛かっていた。
影はその感情を共有し、まるで彼女の心の痛みを理解する存在のようだった。
真希はゆっくりとその影に寄り添った。
「分かっている、もう逃げない」と。
そして、その瞬間、影が彼女の手に触れ、彼女の過去の全ての思いを受け入れるような感覚が広がった。
神社が一瞬、光に包まれた。
真希の中にあった因が少しずつ解き放たれていくのを感じた。
明るさが彼女を包むと同時に、暗い影が薄れていく様子も見えた。
しかし、それは単なる再生ではなく、彼女の一部として受け入れることであった。
時が経つにつれ、真希はその神社から立ち去ることができた。
明るい未来を抱きしめて、彼女は過去の自己に別れを告げた。
しかし、その背後からは、静かに影が寄り添ってくるのを感じた。
今度は彼女を揺り動かすことはなく、ただ共にあるという存在感を持って。
あの森には依然として不思議な力が宿っていた。
人々は未練を残し、因の力に影響されていく。
しかし、真希はその場所を思い出し、必要な時にはその存在を頼りにすることを決めた。
彼女の心の中に、影はそのまま留まっている。
因と向き合い、手を携えたまま、過去の傷は彼女を支えているのだと、そう感じていた。
