深秋のある日、重い空気が漂う時計店のふもとに、古びた校舎があった。
人々はこの校舎が閉鎖されてから久しく、誰も近寄ることはなかった。
古い時代の遺物として放置され、雑草が絡まり、周囲の風景に溶け込んでいた。
しかし、一つだけ異彩を放つ場所があった。
それが、地下の庫だった。
その日は、大学の歴史研究部の仲間たちと一緒に、校舎の歴史的価値を調査するために訪れた。
私たちのリーダー、佐藤亮は、興味深い情報を掴んでいた。
曰く、この校舎の地下には、かつて存在した時計屋の伝説が隠されているというのだ。
「この校舎の中には、いわくつきの時計があるんだ。過去にその時計を手に入れた者は、時間を操る力を得る代わりに、何かを失うと言われている」
私たちは半信半疑で、地下の庫に足を向けた。
その扉は重く、まるで何かに隠されているかのようだった。
扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ込み、どこか薄暗い場所が目に入った。
「おい、見てみろ」と亮が叫んだ。
奥の方に、確かに古びた時計が置かれているのが見えた。
その時計は美しい装飾が施されていて、どこか神秘的な魅力を放っていた。
しかし、周囲を見ると、何か不気味な影が潜んでいるような気がした。
「ここ、なんかおかしいよね」と言うと、もう一人のメンバー、田中望が不安げに目を走らせた。
「何だか、私たちを見ているような気がする」
「大丈夫、ただの影だろう。時計を調べよう」と亮は言った。
しかし、その瞬間、照明が揺らぎ、薄暗い庫の奥から誰かの気配を感じた。
私たちの背後から、低い声が囁くように響いた。
「私を王にして、私のために時計を使え」
その瞬間、全員が凍りついた。
声がした方向には、誰もいないはずだった。
私たちの目は、腰を抜かすので精一杯だった。
影のようなものが、時計を持つ私たちの背後で動いている。
おそるおそる後ろを振り返ると、そこにはぼやけた人の形が。
ただの影というには、あまりにも生々しい存在感だった。
「何かいる…」望が震える声で告げた。
しかし亮は「気のせいだ。時計を見てみよう」とその影を無視していった。
彼が時計の針を動かそうとしたその瞬間、“影”が近づいてきた。
私たちの心臓が高鳴る。
影は笑うように口を開き、言葉を続けた。
「私を持つものよ、望みを叶える代わりに、私を解放せよ」
望は恐怖から顔を青ざめさせた。
「そんなのあり得ない!」と叫ぶと突然、庫の照明が消えた。
暗闇に縛られるような恐怖が襲ってきた。
その瞬間、私は思わず手を伸ばし、手元の懐中電灯を明かりにした。
薄暗い庫の中で、目の前に存在する影は不気味に形を変え続け、すがるような目で私たちを見ていた。
“解放”の言葉が私の耳に響いた。
その声に恐れを抱く一方、何か懐かしい気持ちを伴っていた。
この影が求めているのは、私たちの好奇心なのか、あるいは解放なのか。
影は一瞬、私の心に映り込む。
「いいだろう、私たちが望むものを教えてくれ」望が口を開いた。
影は柔らかい声で「私を誰かに受け入れさせてくれれば、私の力をお前たちに分け与えよう」と囁いた。
私たちの心は揺らぎながらも、その影の言葉に惹かれていた。
その影と取引することは危険だとわかりながらも、私たちはその影を受け入れることにした。
そして、その影は瞬時に私たちの望みを奪った。
その後、私たちの手には時計が残り、影は薄れるように消えていった。
それ以降、私たちの身の回りには奇妙な現象が続いた。
時間が止まったり、逆回転したり。
望みを持つことになった私たちの心には、影の存在を追い求める気持ちが芽生えていた。
それがいつの間にか、大きな代償となり、私たちから何か大切なものを奪ってしまったのは言うまでもない。
しばらくして、私たちは影の影響から逃げることもできず、不安な日々を送っていた。
影の存在は永遠に記憶の中で生き続け、私たちの心を支配していくのだった。
時計は今も誰かの心の中で、静かに動き続けていた。