静かな田舎の村、誰も訪れることのない古びた神社が残されていた。
周りの木々は鬱蒼と茂り、日の光がほとんど届かない場所だった。
この神社には、長い間忘れ去られた祭神が宿るとされていた。
しかし、村人たちの間では、その祭神を祀ることこそが、村に災厄をもたらすことになると語り継がれていた。
人々は神社を避けるようになり、草に覆われたその場所は徐々に廃れていった。
ある日、若い男性の名は健太。
彼は自らの好奇心を抑えきれず、この神社を訪れることを決意した。
村人たちからの警告を無視し、彼はその神社の扉を開けた。
彼は自分の目で何が起こっているのかを確かめるために、古い祭具に触れ、静かな祈りを捧げた。
すると、周囲の空気が変わり、神社の中にいるはずの健太に冷たい視線が突き刺さったかのように感じた。
激しい風が吹き抜け、神社の壁がまるで生きているかのように揺れた。
彼はその場から逃げ出したかったが、身体が動かなかった。
目の前に、まるで闇から生まれたかのような影が現れ、彼を見下ろしていた。
その影は、人の形をしているが、どこか異次元から来たかのような醜悪さを放っていた。
健太は恐怖で身動きが取れないまま、影が口を開くのを待った。
「お前が私を呼び起こした」と低い声が響いた。
影は、その語調からしてただの悪霊ではなく、かつてこの地を支配していた神であることを告げていた。
彼は、悪を超越した存在として、この村の人々に怒りを持っていた。
「私を封印した者たちに、復讐を遂げさせて欲しい。お前は、私のために働く者となれ」と影は続けた。
健太は恐ろしさと同時に、影の声に魅せられている自分を感じていた。
その声は彼の心の奥底に響き、欲望や憎悪が渦巻き始めた。
彼は、影と共に行動することを決意した。
村に戻った健太は、次第に冷酷になっていった。
彼の目には、村人たちが奉じていた祭神への敬意や感謝の気持ちはなく、ただ征服すべき対象でしかなくなった。
夜になると、彼は神社で影と共に、村の人々に奇妙な現象を引き起こさせた。
村の作物は枯れ、人々は不安でやつれていったが、健太はその様子を見て心を躍らせていた。
ある晩、彼は村の集会に参加し、影が与えた力を利用して、村人たちを恐れさせた。
彼は神社の存在を否定し、村の外から訪れる悪霊を恐れさせることで、影の意向に従うことが村を救う道だと主張した。
その言葉は、村人たちの心を引き裂くものであったが、彼はその意図を正として押し通した。
だが、次第に健太自身が影の持つ悪に取り込まれていった。
影は彼の心を蝕み、彼は他の村人に対する憎しみを抱き始めた。
そして、彼を恐れる村人たちもまた、次第に彼を孤立させていく。
健太は、影との契約の代償があまりにも大きいことを理解することなく、悪を続けた。
ある晩、彼は再び神社へ向かった。
すでに破壊的な力を持つ影は、健太の中で強大になっていた。
彼はもはやただの人間ではなく、影の手先となっていた。
そして、再び影に向かって問うた。
「お前の望みは何だ?」
影は冷たい笑い声を響かせ、「お前が私の意志で動く限り、私はお前を解き放つことはない。さあ、もっと人々を苦しめろ」と告げた。
健太は、その声に逆らえなかった。
彼はその瞬間、自らの選択を思い悩む暇もなく、影に操られる運命に囚われてしまった。
その後、村は影の力にとらわれ、健太は村の惨劇の片棒を担ぎ続けることとなった。
彼が触れた正義の印は、いつしか悪の印となり、村全体を暗い影で包み込むことになった。
老若男女問わず、村人たちは次々と影の虜となり、健太は彼らを見つめるだけだった。
影との契約に迷いを持つ健太は、実は自らの心の内に隠された悪もまた解放していたのだ。
彼は決して、過去の自分を取り戻すことはできなかった。
そして、村の平穏は永遠に奪われ、影の存在はさらなる悪を呼び寄せることとなった。