「影が奏でた友情のシルエット」

夏の終わり、学校の裏手にある古びた校舎。
生徒たちが怖がるからか、普段はそう滅多に近づかない場所だった。
しかし、孤独を感じていた高校二年生の陽花は、特に友達が少なかったため、つい好奇心からその校舎に足を踏み入れることにした。

薄暗い廊下を進むと、窓から漏れた微かな光が、埃をかぶった教室の中を照らしていた。
教室には昔の教科書が散乱し、椅子が乱雑に置かれている。
陽花は、不安を感じながらも一歩足を踏み入れ、周囲を観察した。
誰もいないと思っていたその瞬間、教壇の向こう側から囁くような声が聞こえた。

「こちらへ…」

恐怖心が駆け巡るが、何故かその声に引き寄せられるように陽花は進んで行った。
教壇の裏には、ぼんやりとした影があった。
影は人の形をしていたが、どこか異質で、まるで光を吸い込むかのように存在が薄い。
陽花が思わず恐れをなして立ち止まると、その影はゆっくりと顔を向けた。

「友達…を探しているの?」

驚きつつも、その声にはどこか懐かしさを感じた。
孤独だった陰の部分が共鳴するようで、思わず陽花は質問を返した。
影は名前を名乗り、「裕樹」と名乗った。
彼もまた、この校舎の近くで生徒だったが、ある事故で命を落としてしまったという。
数年前のことで、今では夜の校舎に残るだけの存在となっていた。

裕樹は悲しそうな笑みを浮かべながら、自らの話を始めた。
彼が愛した仲間たちとの思い出、そしてその思い出がなぜ彼の心に重くのしかかっているのか。
陽花は、彼の話を聞いているうちに、少しずつ孤独が癒されていくのを感じた。
裕樹が彼女に寄り添い、彼が逃げられない思い出について共に語ることで、彼女は自身の孤独をも語り始めた。

「私も、友達ができないの…」

陽花は自分の心に閉じ込めていた思いを裕樹に打ち明けた。
裕樹はその言葉に耳を傾け、優しい目で見つめ返す。
陽花はその瞬間、彼が本当に存在しているのだと確信した。

だが、次第に教室の空気が変わっていく。
陽花の背後から、誰かが近づいてきている気配がした。
恐る恐る振り返ると、黒い影が迫っていた。
それは裕樹に対する嫉妬を抱いた、他の霊たちの姿だった。
「友達なんていらない」「彼を離せ」と囁く声が響く。
裕樹は動揺し、陽花を守ろうとしたが、彼もまたその影に飲み込まれそうになる。

「逃げて!」裕樹の叫び声。
しかし、陽花は逃げることができなかった。
彼女はその影たちに囲まれ、動けなくなる。

陽花は裕樹に向かって必死に叫ぶ。
「あなたが私を孤独から救ってくれたんでしょう?あなたの思い出が、私に友達を考えさせてくれた!」

その瞬間、裕樹の存在が輝きだした。
彼は陽花に向かって微笑み、影たちに立ち向かっていく。
陽花はその姿を見て、彼の愛と友情が強さとなり、影の嫉妬を跳ね返していることを感じた。

ようやく影が散っていき、陽花は裕樹が消えてしまう瞬間を見つめながら叫ぶ。
「絶対に一人にしないから!」

彼女の心に裕樹の思い出が刻まれる。
校舎の外へ出ると、陽花は振り返った。
薄暗い中にも光が差し込むその場所には、孤独だった自分と向き合った優しい影があった。
彼女は忘れない。
裕樹との出会いが、彼女の心に新たな仲間を信じる力を与えてくれたことを。

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