ある日の夜、静かな町外れにある古びた病院に、若者の健太と友人の誠、そして美紀の三人が集まった。
彼らの間には、不思議な噂があった。
近くの山に住むという「山の霊」が病院の地下には棲んでいるという。
久しぶりの集まりということもあって、彼らは肝試しをしようと決めた。
病院の外観はかなり朽ち果てており、木の扉は錆び付いていて簡単には開かなかったが、健太が力を込めると、ギーッと音を立ててずれた。
薄暗い廊下に入ると、空気がひんやりと感じられ、まるで誰かに見られているような不気味な感覚が彼らを包んだ。
「ここ、本当に大丈夫かな…?」美紀が心配そうに言った。
普段は落ち着いた性格の健太も、次第に緊張を隠せなくなっていた。
「怖がることないよ、すぐにここの怪談を聞かせてあげるから」と誠は言い、彼らは地下へと進んでいった。
廊下の端にたどり着くと、彼らは階段の扉を発見した。
まるで何かが呼んでいるようで、その場から動けずにいた。
地下室へと続く階段は急で暗く、手すりも朽ち果てている。
足を一歩一歩進めると、湿った空気が混じり、どこか異様な匂いがした。
最後の段を下りたところで、彼らは目が覚めたかのような錯覚に陥った。
不気味な音が壁に響き、何かが彼らを包み込むようだった。
「まさか、本当に霊なんかいるの?」健太が小声で言った。
誠は冷静を保とうとしたが、彼の表情も崩れていた。
その時、地下室の奥からかすかな声が聞こえた。
「逃げて…」それはか細く、悲しみに満ちた声だった。
しかし、健太はなぜかその声に引き寄せられた。
彼女らの視線は、その声の方へと向かってしまったのだ。
「こんなところ、早く出ようよ!」美紀が勢いよく言ったが、二人はその声に心を奪われ、動けなかった。
やがて視界の奥に薄暗い影が現れた。
「私のところへ来て…」その声は徐々に大きくなり、強烈な不安を彼らの心に植え付けていく。
何かが彼らを惹きつけていた。
すると、突然、強風が地下室を襲い、彼らはそれぞれの場所へと吹き飛ばされた。
健太は床に転がり、気が付くと美紀と誠の姿が見えなくなっていた。
恐れと焦りが心を占めた時、再び声が聞こえた。
「裏切ったのね…」
その声に思わず震え上がる。
彼が目を向ける先には、暗い影が立っていた。
その影はゆっくりと近づいてきて、眼差しの先には彼を見つめる二人の友達がいた。
彼らの目は焦燥と恐怖に満ち、声を失っていた。
そして、影が彼を包むように襲い掛かってきた。
「逃げたら、敗けだから…」その瞬間、影が彼の心に何かを突き刺した。
彼は恐ろしくなり、考える余裕もなかった。
ただ、「友達を助けなければ」と思うばかりだった。
しかし、その時、急に彼の頭の中に響いたのは、女の声だった。
「助けてほしければ、甘い言葉をかけて…」
まるで悪夢のような状況の中で、健太は自分に何が起こっているのか理解できなかった。
ただ、目の前で苦しんでいる友達を救うために、できることをするしかなかった。
「美紀、誠、すぐに出よう!」と叫んでみたが、彼らはまるで無視されているようだった。
思わず彼は走り出したが、まるで何かに足を引っ張られているようで、全く進むことができなかった。
その後、彼は必死に奮闘したが、状況は悪化する一方。
やがて、彼の思考は霧のように消え、意識が遠のいていった。
その瞬間、目の前が真っ暗になり、彼の心に冷たい影が押し寄せてきた。
気が付くと、健太はその病院の前に立っていた。
周囲は静まり返り、友達の姿はどこにもなかった。
彼は急いで振り返り、その場所へ戻ろうとしたが、どうしても動けなかった。
そして、心の中で自責の念が響き渡った。
「私は敗けたのか…」
それ以来、彼は町中で友達を見つけることができず、あの病院にあった影の事を思い出すたびに、何とも言えない恐怖感が彼を襲った。
未だにあの地下室には、思い出の中の彼らが囚われているのかもしれないと感じる。
彼はただ、静かに過去を悼むのだった。