夜、静まり返った街の片隅にある古びたアパート。
そこには、若い女性の美佳が一人暮らしをしていた。
彼女は学生で、夜遅くまで勉強に励んでいることが多かった。
その晩、美佳は図書館での勉強から帰宅し、いつものように部屋に戻った。
部屋の明かりが薄暗く、外からの風の音がその静けさを一層際立たせていた。
美佳はリビングのソファに腰を下ろし、普段通りパソコンを開いて勉強を始めた。
やがて、時計が深夜の12時を回る。
静寂の中、次第に外が不気味な雰囲気に包まれてゆく。
どこかから薄く響く声が聞こえてくる。
美佳はその声に気づき、一瞬不安を覚えた。
耳を澄ませてみると、その声は「生きているのか？」というように聞こえた。
「何の声だろう？」美佳は首をかしげたが、すぐに勉強に戻った。
しかし、声が強く響くごとに彼女の心臓は高鳴り、集中力がそがれてゆく。
それでも、気を紛らわせるために音楽を流すことにした。
明るい曲を選び、静かな空間を少しでも賑やかにしようとした。
しかし、そんな明るさも虚しく、再び同じ声が端々から聞こえてくる。
「生きているのか？助けてくれ」と。
その声の発信源を探ろうと、美佳は立ち上がり、部屋を見回した。
すると、ふと窓の外に目をやると、そこには誰かが立っているように見える影があった。
彼女は息を呑み、急いでカーテンを閉めた。
「気のせいだ、気のせいだ」と自分に言い聞かせ、再びソファに戻った。
しかし、次の瞬間、部屋の温度が急に下がり、彼女の背筋を寒気が走った。
恐怖心が募る中、美佳のクリエイティブな精神がある考えを思いついた。
「これはきっと、霊のせいだ」と。
彼女の心の奥底から、何かを求める声が響いているように感じたのだ。
気を取り直し、彼女は声を無視することに決めた。
そして再びパソコンに向かい、自身の勉強に集中しようとした。
そのとき、突然、パソコンの画面が乱れ始め、消えかけた。
再起動を試みるも、全く反応しない。
彼女は不気味さを感じ、手元のライトを手に取った。
「一体何が起こっているのだろう？」恐怖が彼女を支配し始め、もう一度外の様子をうかがおうと窓のカーテンを少し開いた。
その時、窓の外からまっすぐ美佳を見つめる目があった。
それはどこか悲しげで、彼女を呼んでいるようだった。
美佳は恐怖に駆られ、教室帰りの遅い時間にその目を見続けることが耐えられなかった。
「お願い、負担をかけないで」と思いながら、カーテンを閉じた。
ならば、忘れることにしようと。
勉強を再開したが、耳元には「生きているのか？」という声が絶え間なく響いていた。
次第にその声が大きくなり、心の内側から響くような感覚になってきた。
そして、意識が夢の世界へと沈んでいった。
気がつくと、夢の中で彼女はアパートの屋上に立っていた。
周りは暗闇に包まれており、浮遊感があった。
彼女は「どうしてここにいるの？」と問いかけようとしたが、声が出なかった。
突然、目の前にその影が現れた。
美佳は一瞬恐怖で身体が固まったが、その影が言った。
「助けて……生きているのか？」
美佳は動くことができず、無力感を感じた。
その影にはかつての自分の姿が重なった。
忘れていたものを思い出すように、涙がこぼれた。
それは過去の自分が抱え込んでいた恐れだった。
彼女は目をつむり、その声に応えることを決意した。
「助けるよ、あなたのために」と心の中で叫んだ。
どのくらいの時間が経ったのかわからなかった。
目覚めるとそこには、先ほどの不気味な声も影もなかった。
ただ、静かな夜の空気だけが流れていた。
彼女はあの日の思いを胸に、これからの微かな声に耳を傾けながら生きていくと決めたのだった。
