「引き寄せられた糸」

ある晩、大学の演劇サークルのメンバーたちは、座談会を開くことにした。
お題は「不思議で恐ろしい体験談」。
部室に集まったのは、青年の健太、明るい性格の真紀、そして物静かな佑介の三人だった。
この場所は、先代の劇団員が自ら命を絶ったという噂があったため、真紀は少し不安を感じていたが、好奇心が勝り、集まることにした。

すると、佑介がとても興味深い話を持ち出した。
「先日、夜遅くに一人で座っていると、視界の端に黒い糸が見えたんだ。それはまるで、誰かが引っ張っているかのように動いていた。」健太は興奮し、「それは本当に怖いね!その糸はどうなったの?」と質問した。
佑介は続けた。
「糸はどんどん私の方に引き寄せられ、目の前に浮かんだ瞬間、私はその糸に導かれるように立ち上がってしまった。」

「どういうこと?」真紀が興味を持って尋ねる。
「その糸は、私を暗い部屋へと導いていった。手が勝手に糸を追いかけてしまい、その先には古い木の扉があったんだ。」佑介は一息ついた。
「そして、扉を開けると、目の前には真っ暗な空間が広がっていて、ただ糸だけが輝いていた。」

健太は目を輝かせて尋ねた。
「その糸は、何かを語っていたの?」佑介は顔をしかめた。
「実は、糸は私に何かを訴えかけているように感じたんだ。『来て、私のところへ…』って言っているような…。でも、その瞬間、急に怖くなって、私は部屋から逃げ出そうとした。すると、糸は一瞬で切れて、その声も消えた。」

「それで、その糸はどうなったの?」真紀の声は少し震えていた。
「その後、私は何も見なかった。でも、あの時の感覚がまだ忘れられない。糸が引っ張られていた場所に、いまだに不思議な残響を感じるんだ。」

真紀は身をすくませながら言った。
「それなら、私も似たような体験がある。数ヶ月前、劇団の小道具を探していると、なぜか一つだけ古いコルクボードに引き寄せられたの。何かを感じて触ってみると、びりびりとした感覚がしたの。それと同時に、耳元で何かを囁く声が聞こえた気がした。『戻ってこい』って。」

健太は驚いた。
「それは…もしかしたら、糸が通じているのかもしれない!」佑介も興味を持った。
「それなら、私たちも座を替えて、別の物を探した方がいいかもしれない。」

三人は立ち上がり、さっと座の位置を変えた。
そして、佑介が言った。
「じゃあ、今度は僕が糸に導かれた場所に行こう。」彼らは新しい興味を持ちながら、新たな探検を始めた。
そこには小さな空間が広がっていたが、何かがあるような気配が敏感に感じられた。

しかし、時間が経つにつれ、不安が増してきた。
周囲が静まり返り、何かが彼らを見つめているような気配を感じた。
「これ、本当に大丈夫?」真紀は声を震わせながら言った。
佑介も目を大きくして周囲を見回した。
「糸がどこかに隠れているとしたら…」

次の瞬間、風が吹き抜け、部屋の空気が急に重くなった。
そして、二人の目の前に一筋の糸が現れた。
まるで誰かが糸を引っぱっているように、緩やかに揺れていた。
「これ、何かの合図だよ…」佑介がつぶやいた。

全員がその糸に引きつけられるかのように動いた。
しかし、それはもう一つの真実を暴く糸のように感じられた。
その瞬間、部屋の壁にかかった劇のポスターが落ち、まるで誰かに引き裂かれたかのように崩れ去った。

「逃げよう!」健太が叫んだ。
三人は周囲の冷気を感じながら、部室から逃げ出すことに必死になった。
振り返ると、糸は静かに消え、部屋はただの空間に戻っていた。
しかし、その恐怖は心に刻まれ、元の場所には決して戻れないという知識が共鳴していた。

彼らはその夜以来、糸の正体を考え続けた。
もしかしたら、それは人の心の繋がりを証明するものであって、同時に破壊的な力を持っているのかもしれないと思っていた。
恐れながらも、今後の劇でこの体験をもとに、改めて演じるべきことを見出すことになったのだった。

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